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  1. 2)鯨類相に関する調査
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

2)鯨類相に関する調査

岡部晴菜*1・河津 勲*1

1.はじめに

現在、世界では約86種の鯨類が確認されているが、南西諸島における鯨類相の情報は未だ不十分であり、これは鯨類の保全や利用(鯨類ウォッチングなど)に重要な基礎情報となる。そこで当財団では南西諸島における鯨類の発見情報の収集を行ってきた。ここでは平成25年度に行った調査の概要について報告する。

2.南西諸島における鯨類のストランディング調査

鯨類は稀に死亡漂着(死亡した状態で海岸に打ち上げられること)、迷入(本来の生息域でない沿岸や河川等に迷い込むこと)、座礁(生存した状態で海岸に打ち上げられること)、混獲(生死を問わず定置網等の漁業により意図せず捕獲されること)が確認され、これらを総称してストランディングと呼ぶ。

本調査では、平成25年4月~平成26年3月に一般からの情報提供を元に、可能な限り現地へ赴き種同定や解剖を行った。腐敗や損壊が著しく、外部形態からの種判別が困難なものに関してはDNA分析により同定を行った。

確認された鯨類は、迷入したマダライルカStenella attenuata 1例(渡名喜島)、死亡漂着したコブハクジラMesoplodon densirostris 3例(石垣島、国頭村および名護市)(図-1)、シワハイルカSteno bredanensis 1例(うるま市)(図-2)、コマッコウKogia breviceps 2例(国頭村、大宜味村)、オガワコマッコウKogia sima 2例(奄美大島、西表島)、ミナミバンドウイルカTursiops aduncus 2例(奄美大島、沖永良部島)(図-3)であった。

漂着が確認された種のうち、ミナミバンドウイルカは沿岸性で、国内では小笠原、御蔵島、天草、能登島、奄美大島など局所的に分布する種である(船坂,2013)。これまでの当財団の調査では、洋上での発見情報も含めて奄美大島周辺(以下、奄美)での確認が特に多く、奄美以外の確認は沖縄島周辺での確認例が2例のみであった。したがって、今回のミナミバンドウイルカの漂着は沖永良部島において初の確認例となる。これまでの調査結果から、奄美以外に生息している可能性も考えられるが、現段階では例数の少なさから言及することができない。今後も引き続きストランディング情報の収集を行う必要がある。

  • 図-1 漂着したコブハクジラ(名護市)
    図-1 漂着したコブハクジラ(名護市)
  • 図-2 漂着したシワハイルカ(うるま市)
    図-2 漂着したシワハイルカ(うるま市)
  • 図-3 漂着したミナミバンドウイルカ(沖永良部島)
    図-3 漂着したミナミバンドウイルカ(沖永良部島)

3.奄美大島周辺におけるミナミバンドウイルカ調査

当財団では平成22年度から三重大学と共同で奄美大島周辺におけるミナミバンドウイルカの生息数や出現状況、移動状況について調査を継続してきた。今年度は、奄美クジラ・イルカ協会を中心とした地元の方々による調査体制が確立したため、本種の発見情報や写真を提供して頂くことで調査を行った(図-4)。

本種は背びれ後縁の形状が一頭一頭異なるため、個体を識別することが可能である(図-5)。調査では、地元住民の方々より提供頂いた背びれ写真を、過去に撮影された写真と比較することで個体識別を行った。

調査の結果、平成25年4月~26年3月に奄美周辺にて発見されたミナミバンドウイルカは計38群602頭(写真提供:756枚)であった。昨年の発見数(23群232頭)と比較すると大幅な増加がみられた。これは、地元団体(奄美クジラ・イルカ協会)の活動が強化された結果であるといえる。地元から提供頂いた写真の個体識別については、現在進めている。

今後も地元と連携をとりながら、写真や情報を提供して頂くことで調査を継続していく予定である。

  • 図-4 奄美大島に生息するミナミバンドウイルカ(写真提供:奄美クジラ・イルカ協会 興克樹氏)
    図-4 奄美大島に生息するミナミバンドウイルカ
    (写真提供:奄美クジラ・イルカ協会 興克樹氏)
  • 図-5 ミナミバンドウイルカの背びれ写真(写真提供:奄美クジラ・イルカ協会 興克樹氏)図-5 ミナミバンドウイルカの背びれ写真(写真提供:奄美クジラ・イルカ協会 興克樹氏)
    図-5 ミナミバンドウイルカの背びれ写真
    (写真提供:奄美クジラ・イルカ協会 興克樹氏)

参考文献
船坂徳子.2013.奄美大島周辺におけるミナミハンドウイルカ.月刊海洋,Vol.45.p262‒266.


*1研究第一課

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