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  1. 2)園芸品種作出に関する調査 (リュウキュウベンケイ・コウトウシュウカイドウ)
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

2)園芸品種作出に関する調査 (リュウキュウベンケイ・コウトウシュウカイドウ)

佐藤裕之*1・端山 武*1・高江洲雄太*1

1.本研究の背景

沖縄県は日本の南西に位置し、亜熱帯で島嶼という特殊環境であるため他県に比べて植物の多様性が高く、また、日本では沖縄県にしか確認されていない貴重な植物も多い。沖縄県に自生する植物の4割は絶滅の危機に瀕しており、その保全に向けた研究が急務である。絶滅危惧種を保全する上でその植物の有用価値を見出すことは, 保全活動を推進する動機づけとして重要となる。リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは国内では沖縄県にのみ自生する植物であり、前者は野生絶滅、後者は絶滅危惧Ⅱ類に指定されている (環境庁自然環境局野生生物課, 2000)。リュウキュウベンケイの属するカランコエ属とコウトウシュウカイドウの属するベゴニア属は花卉園芸植物として重要な分類群であり、多くの原種が交配育種により園芸化されてきた。しかし、リュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウは園芸植物として未利用の種である。本研究ではリュウキュウベンケイとコウトウシュウカイドウの保全に向け、交配育種素材としての有用性を調査した。

2.リュウキュウベンケイの交配育種利用に向けた研究

2-1.緒言

 以前までの研究結果で、リュウキュウベンケイとベニベンケイの交配により切り花向けの優れた高性品種が誕生している。選抜した2品種について2014年9月に品種登録され、同年、5品種を追加で品種登録申請した。また、リュウキュウベンケイ近縁種を用いた交配種からも優良品種が生まれており、3品種について品種登録申請行った(以下、リュウキュウベンケイとリュウキュウベンケイ近縁種を用いた交配種のことをカランコエ新品種とする)。カランコエ新品種は特に花もちの点で優れており、水のない条件で1ヶ月近く花もちする。また、花色が豊富でステムも長いことから、今後、切り花として多面での利用が期待される。
カランコエ新品種は、新規の花卉園芸植物であり、生育特性に関する十分な知見を得られていないのが現状である。本研究は沖縄県におけるカランコエ新品種の営利生産化に向け、生育特性に関するデータを蓄積することを目標とし、栽培方法の違いが生育に及ぼす影響を調査した。

2-2.材料及び方法

 リュウキュウベンケイ交配種6種(‘ちゅららダブル’ ‘ちゅららイエロー’‘ちゅららピンク’‘ちゅららレインボー’‘ちゅららダブルピンク1’‘ちゅららダブルピンク2’)とリュウキュウベンケイ近縁種を用いた交配種2種(‘美ら島ダブルレッド’‘美ら島ダブルオレンジ’)を対象とし、以下の栽培試験を行った。(各品種の特性については表-1参照。)

Ⅰ, 挿し芽時期の違いによる生育の比較
リュウキュウベンケイ交配種は栄養繁殖性作物であるため、増殖に当たっては挿し芽を行う。また、キクの作付け同様、高品質の切り花を斉一的に生産するためには毎年挿し芽更新を図るのが良いと考えられる。そこで、挿し芽の適期を調査するため、新芽が充実する6月下旬、7月下旬、8月下旬の3回分けて挿し芽を行い、開花時に植物体各部の計測を行った。
試験に用いる挿し穂は沖縄美ら島財団熱帯植物試験圃場(本部町)にて維持管理された親株より採集し、展開葉6枚と1節に調整した後供試した。挿し芽はタキイセル培土と鹿沼土(粒径;3~5mm)を3:1の比率で混合した培養土を用い、7.5cmポリポット鉢に行った。約50%遮光下で1ケ月間栽培後、タキイ育苗培土と鹿沼土(粒径;3~5mm)を3:1の比率で混合した培養土を用いて12cmポリポット鉢に鉢上げした。鉢上げ後は50株/1m2の密度で挿し芽時と同じ環境にて栽培し、鉢上げの10日後にIB化成肥料3gを施肥した。植物体の支持のため、8~9月に10cmマス目のフラワーネットを張った。フラワーネットは試料の生育に応じ、適宜高さを調整した。摘心はせず、1本に仕立てた。
計測は草丈、分枝数、葉数、葉幅、葉長、茎の直径について行った。分枝数については主茎頂部から側枝が発生していない節までの間の側枝数を数えた。葉数については長さ6cm以上のものを数えた。葉幅については最も大きい葉の幅の測定を行った。なお測定は丸葉の品種のみ行った(切葉の品種は葉幅が不定のため)。葉長については最も大きい葉の長さの測定を行った。茎の直径については地際部から3~5cm上の節間部を測定した。各試験区とも40株以上栽培し、その中からランダムに5株選出し計測を行った。

 

 

 

表1. 栽培試験に用いたカランコエ新品種の特徴

品種名 花色 花型 開花期 葉型
‘ちゅららダブル' 八重 12月上旬 丸葉
‘ちゅららイエロー' 一重 11月下旬 丸葉
‘ちゅららピンク' 一重 11月下旬 丸葉
‘ちゅららレインボー' 薄黄→薄桃 一重 12月中下旬 丸葉
‘ちゅららダブルピンク1' 八重 12月下旬 丸葉
‘ちゅららダブルピンク2' 八重 1月中旬 丸葉
‘美ら島ダブルレッド' 朱赤 八重 1月中旬 切葉
‘美ら島ダブルオレンジ' 八重 1月中旬 切葉
 

Ⅱ, 芽かき作業の有無による生育の比較
カランコエ新品種は側枝が発生するため、主茎上部の花のボリュームを増やすためには適度な芽かき作業を行う必要がある。芽かきの有無による生育比較を行うため、挿し芽後、出蕾までの間発生する側枝をすべて取り除いた試験区と側枝を残す試験区を設け、開花時に植物体各部の計測を行った。
挿し芽は6月下旬に行い、その他の栽培や測定事項はIに準じた。

 

Ⅲ, 露地栽培試験(予備試験)
沖縄県の切り花生産は露地栽培が一般的である。そのため、リュウキュウベンケイ交配種を生産普及していくためには、今後、露地栽培を中心として栽培調査をしていく必要がある。リュウキュウベンケイ交配種は今までに一度も露地植栽をしたことがないことから、今回は予備試験として、キク栽培を参考にした露地栽培を行った。
試験に供試する苗は試験Ⅰと同様の手法で栽培した6月下旬挿しの7.5cmポリポット苗を使用した。植栽土壌は国頭マージで基肥として堆肥:1,500kg/10a  CDU555:200kg/10a を施した(追肥なし)。畦幅を1.5mとし、雑草対策としてシルバーマルチを使用した。25株/1m2の密度で定植し、植物体の支持のため、8~9月に10cmメッシュのフラワーネットを使用した。ネットは試料の生育に応じ、適宜高さを調整した。計測事項はⅠに準じた。

 

2-3.結果

Ⅰ, 挿し芽時期の違いによる生育の比較
多くの品種、測定項目において、挿し芽時期が早いほど測定値が大きくなる傾向が見られた。(図-1,2)
草丈はどの品種も6月下旬挿しが高くなる傾向にあり、‘美ら島ダブルオレンジ’が106cmと最も高く、‘ちゅららピンク’が64cmと最も低かった。挿し芽時期を遅らせるにつれてどの品種も草丈は低くなり、8月下旬挿では’‘美ら島ダブルオレンジ’が58cmで最も高く、‘ちゅららピンク’は42cmで最も低かった。
分枝数は‘ちゅららダブル’、‘ちゅららイエロー’、‘ちゅららレインボー’、において7月下旬挿しが多くなる傾向にあり、それ以外の品種は6月下旬挿が多くなる傾向にあった。6月下旬挿しの‘ちゅららピンク’が16本で最も多く、8月下旬挿しの‘美ら島ダブルレッド’が4本で最も少なかった。
葉数はどの品種も6月下旬挿しが多い傾向にあっり、 ‘美ら島ダブルオレンジ’が42枚と最も多く、‘ちゅららイエロー’、が19枚と最も少なかった。挿し芽時期を遅らせるにつれてどの品種も葉数は少なくなり、8月下旬挿しでは、‘美ら島ダブルオレンジ’が20枚で最も多く、‘ちゅららピンク’が10枚で最も少なかった。
葉幅は‘ちゅららダブル’、‘ちゅららイエロー’、‘ちゅららレインボー’、‘ちゅららダブルピンク1’、 ‘ちゅららダブルピンク2’において7月下旬挿しが広く、‘ちゅららピンク’は6月下旬挿しが広かった。7月下旬挿しの‘ちゅららイエロー’‘ちゅららダブルピンク2’が10cmで最も広く、8月下旬挿しの‘ちゅららダブル’が5cmで最も狭かった。
葉の長さは‘ちゅららイエロー’、‘ちゅららレインボー’、‘ちゅららダブルピンク2’、‘美ら島ダブルレッド’、‘美ら島ダブルオレンジ’において7月下旬挿しが長く、それ以外の品種は6月下旬挿しが長かった。7月下旬挿しの‘美ら島ダブルオレンジ’が21cmで最も長く、8月下旬挿しの‘ちゅららダブル’、‘ちゅららダブルピンク1’、‘ちゅららダブルピンク2’が10cmで最も短かった。
茎の直径は‘ちゅららダブルピンク1’を除き6月挿しが大きくなる傾向にあり、‘美ら島ダブルレッド’、‘美ら島ダブルオレンジ’が13mmと最も大きく、‘ちゅららダブルピンク1’が10mmと最も小さかった。挿し芽時期を遅らせるにつれてどの品種も茎の直径は小さくなり、8月下旬挿では‘美ら島ダブルオレンジ’が10mmで最も大きく、‘ちゅららダブルピンク1’が6mmで最も小さかった。

Ⅱ, 芽かき作業の有無による生育の比較
出蕾までの間、芽かき作業を行った結果、分枝数が1.3~1.8倍とすべての品種において大きく増加した(図-3,4)。特に‘ちゅららイエロー’について芽かき作業による効果が大きく表れ、芽かき作業を行わなかった試験区が8本であったのに対して、芽かきを行った試験区は15本であった。これは花茎上部にて短い分枝が多数発生したためである。芽かき作業の結果、花が頂部に集中するフォーメーションとなった。 また、芽かき作業を行うことにより、草丈、葉幅、葉長ともに大きくなる傾向にあった。

  • A
    A
  • B
    B
  • C
    C
  • D
    D
  • E
    E
  • F
    F
  • G
    G
  • H
    H

図-1 挿し芽時期の違いによる生育の比較。
左から6月挿し、7月挿し、8月挿し。A.‘ちゅららダブル’  B.‘ちゅららイエロー’ C.‘ちゅららピンク’ D.‘ちゅららレインボー’ E.‘ちゅららダブルピンク1’ F.‘ちゅららダブルピンク2’ G.‘美ら島ダブルレッド’ H.‘美ら島ダブルオレンジ’
 

 

 

 

図-2 挿し芽時期の違いによる植物体各部位の比較。A~Hの意味は図1と同じ。

 
  • A
    A
  • B
    B
  • C
    C
  • D
    D
  • E
    E
  • F
    F
  • G
    G
  • H
    H

図-3 芽かき作業の有無による生育の比較。左が無処理区、右が処理区。A~Hの意味は図1と同じ。

 

 

 

 

図-4 芽かき作業の有無による植物体各部位の比較。+が処理区、-が無処理区。A~Hの意味は図1と同じ。

 
  • A
    A
  • B
    B
  • C
    C
  • D
    D
  • E
    E
  • F
    F
  • G
    G
  • H
    H

図-5 露地栽培株の開花時の草姿。左が施設内栽培株(参考)、右が露地栽培株。A~Hの意味は図1と同じ。

 

 

 

 

図-6 露地栽培株の植物体各部位の比較。A~Hの意味は図1と同じ。

Ⅲ, 露地栽培試験(予備試験)
露地栽培を行った結果、鉢栽培と同様、旺盛な生育が見られた(図5,6)。
草丈は‘ちゅららイエロー’が74cmと最も高く、‘ちゅららピンク’、‘ちゅららダブルピンク2’が42cmと最も低かった。分枝数は‘ちゅららダブルピンク2’が27本と最も多く、‘美ら島ダブルオレンジ’が11本と最も少なかった。葉数は‘美ら島ダブルオレンジ’が40枚と最も多く、‘ちゅららレインボー’と‘ちゅららダブルピンク1’が18枚と最も少なかった。葉幅は‘ちゅららイエロー’と‘ちゅららダブルピンク2’が11cmと最も広く、‘ちゅららピンク’が8cmと最も狭かった。葉長は‘美ら島ダブルレッド’が26cmと最も長く、‘ちゅららピンク’が13cmと最も短かった。茎の直径は‘ちゅららダブルピンク2’と‘美ら島ダブルレッド’が16cmと最も大きく、‘ちゅららピンク’が11cmと最も小さかった。(‘美ら島ダブルオレンジ’については欠足値)

 

2-4.考察

図-7 東京への輸送後の様子。(施設内栽培をした‘ちゅららダブル’)
図-7 東京への輸送後の様子。(施設内栽培をした‘ちゅららダブル’)

 本研究では、挿し芽時期、芽かき作業の有無といった栽培方法の違いが生育に及ぼす影響を調査した。
挿し芽時期を変えることにより、草丈を調整することができた。6月挿ではいくつかの品種で100cm程度と草丈が高くなったが、カランコエ交配種の花のボリュームを考慮すると、実需サイズは50~60cm程度が適当であることから、同様の栽培方法を行う場合は7月~8月挿でも十分であると考えられる。
一部の品種で分枝数、最大葉の幅、最大葉の長さが6月挿より7月挿の方が大きくなっていたが、これは6月挿しの生育後期における肥料切れが原因の一つであると考えられる。本調査では鉢上げ10日後に施肥をし、それ以降追肥を行っていないことから、特に、挿し芽を早い段階で行った場合は分枝数を増やし花のボリュームを出すためにも追肥は必要である。
芽かき作業を行うことにより主茎上部の分枝数を増やし、花のボリュームが増した。市場では主茎のボリュームが重視されるため、高品質の切花を生産するためにはある程度の芽かき作業は必要であると考えられる。しかし、芽かき作業は労力を要することから、今後、新品種を開発していく際は側枝の出にくい品種を選抜していく必要がある。

今回、施設内栽培したものを東京の市場へ輸送したところ、花茎の曲りが多く発生した(図7)。この現象は水下がりや重力屈性とは別のものであり、カランコエ交配種は物理的に衝撃を受けると花茎が弱なる性質があると推察された。花茎の曲りが生じたものは、数日静置すると元の状態に戻った。輸送による花茎の曲りは施設内遮光下で栽培したもので重度に生じたが、露地無遮光下で栽培したものでは軽度であった。よって、光強度を高め栽培することが曲りを抑制するために重要であると考えられる。また、防風対策の施されていない露地に植栽されたリュウキュウベンケイが、強固な花茎をもつことが確認された。よって、風環境も花茎の曲りを抑制するために重要な要素であると考えられる。
今回、予備試験として実施した露地栽培は、光、土壌、肥料条件等、施設内栽培とは異なる点が複数あるため、単純な比較を行うことができないが、施設内栽培と遜色ない旺盛な生育を確認することができた。しかし、すべての品種において、草丈が伸びず、茎が太くなりすぎる傾向にあったため、切花としての品質は低いものであった。施設内栽培と異なり、このような現象が起きた理由の一つとして光環境が挙げられる。施設内栽培では50%程度遮光した環境下で栽培していたため、茎がやや徒長気味になった。草丈を高くするためには遮光が有効であるが、先にも述べたとおり、遮光をすると花茎が弱くなりやすい。そこで、遮光ではなく、施肥管理の仕方や挿し芽時期等を検討する事により、茎を伸ばす方法検討していく必要がある。

3.コウトウシュウカイドウの交配育種利用に向けた研究

以前までの研究で、コウトウシュウカイドウとB. chloroneuraの雑種(以下、旧雑種という)にB.nigritarumを交配し、15個体の雑種(以下、新雑種という)を得た。昨年度より引き続き、新雑種の養生、形質確認を行ったところ、いくつかの個体の葉が赤色に呈色した。この赤色はB. chloroneura由来であると推察される。B. chloroneuraは赤色の葉肉細胞と緑色の表皮細胞が合わさることにより葉が黒色になる特徴をもつ。この特徴は旧雑種も同様である。また、B.nigritarumは透明な葉肉細胞と表皮細胞が光を乱反射することにより葉が白銀色になる特徴をもつ。両種を交配することにより、赤色の葉肉細胞と、透明な表皮細胞を併せ持ち、葉が赤色に見えると雑種が生まれたと推察される。
今後はさらなる交配を重ねることにより、実用性の高い品種の開発を進めていく必要がある。

  • A
    A
  • B
    B

図-2 交配親の葉(A)と雑種の葉(B)
写真Aの左側が母親のB.nigritarum、右側が父親の旧雑種。写真Bは新雑種で赤色の葉をもつ個体が幾つか生まれた。

 

引用文献
1) 環境庁自然環境局野生生物課, 2000. 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物). 財団法人自然環境研究センター, p 660.

各供試樹の花芽の伸長量を次に示した。なお産地ごとに花芽等の生育状況(段階)が異なるため、各産地ごとに実施結果をまとめた。


*1研究第ニ課

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