スマートフォンサイトはこちら
  1. 3)ヒカンザクラの開花調整に関する調査(第2報)
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

3)ヒカンザクラの開花調整に関する調査(第2報)

阿部篤志*1・佐藤裕之*1・宮里政智*1

1.はじめに

沖縄県に植栽されているヒカンザクラ(Prunaus campanulata Maxim)は、実生で増殖された株がほとんどで、株毎に個体差があることから開花時期を予測することが困難とされている。一方、ヒカンザクラの花芽の休眠期の解除、開花において温度は大きな制限因子とされている。そのようなことから、今回は、調査木を基準としたヒカンヒザクラの満開時期の予測方法を検討し、また、低温処理による開花調整の実証試験を行ったので報告する。なお、本調査は名護市商工観光課からの業務委託として実施した。

 

2. 期間及び内容

1)期間
平成26年7月1日~平成27年3月31日
2)内容
(1)名護城公園に植栽されているヒカンザラの現況確認
(2)調査木(指標木)の選定及びヒカンザクラの生育特性調査
(3)ヒカンザクラの開花調節(冷蔵処理)による試験

 

3. 業務の実施結果

1)ヒカンザクラの現況確認

名護城公園における生育及び開花状況等の現状を把握するために、2014年12月30日から2015年3月2日にかけて11地点における定点観察、早咲きと遅咲き個体の観察を行った。
(1)名護城公園等11地点における定点観察について
ア)観察地点の選定と調査方法
定点観察用に当たっては、樹勢が良いこと。
複数本のまとまりであること、観覧の動線及びポイントとして利用しやすい立地であることを条件に11地点を選定した。調査方法は、定点での写真記録と目視による記録を行った。
尚、目視による記録については樹冠または林冠全体に占める開花量の割合が10%未満を0点、10%以上〜30%未満を1点、30%以上〜60%未満を2点、60%以上〜90%未満を3点、90%以上〜100%を5点として、5段階評価で地点毎に評価した。また、最高点に対する各月日の点数の割合を百分率で算出し、その値を用いて同公園における開花状況を「○分咲き」と表した。

2)結果
2014年12月30日から2015年3月2日にかけて11地点の定点観察を行い点数により評価した。1月27日が28点と最も高かったことから、同公園における満開日が1月27日前後であることが示唆された。昨年度の調査結果(2013年度「桜開花調整実証業務報告書」)では満開日が1月26日〜28日であったことから、今回の結果とほぼ同じであった。
開花最盛期の花付きについては、「名護城公園東側林道」と「天上展望台周辺」の2地点が、樹冠または林冠全体に占める花の量の割合が90%以上と最も多く、順に「さくらの園北側東屋」、「ウーマク広場近く林道」、「名護神社近くの林道」、「名護神社の階段(中部)」、「名護城公園南口側道路」の5地点が3点(60%以上〜90%未満)、「さくらの園西側林道」の1地点が2点(30%以上〜0%未満)、「名護城公園南口広場〜名護神社の階段(下部)」、「名護神社の階段(上部)」の2地点が2点(10%未満)となった。
なかでも、花付きの少ない「さくらの園西側林道」は、北西側の斜面に植栽され、かつ谷型の地形であり周辺が自然林や上方のヒカンザクラ植栽木の囲まれていることから日照不足が考えられた。また、「名護城公園南口広場〜名護神社の階段(下部)」と「名護神社の階段(上部)」においては、植栽マスの容積の小ささによる根詰まりや夏場の干ばつの影響、周囲に遮るものがない立地条件で季節風や台風等の影響を受けやすい環境であること等から生育が悪く、花付きが極端に少ないことが推察された。
一方で、花付きの多い「名護城公園東側林道」と「天上展望台周辺」においては、周囲が自然林に囲まれ、かつ植栽マスなど根張りに制限を受けない立地条件であることから、季節風や台風の影響が少ないこと、土壌の物理性・化学性・生物性のバランスが良好な環境であることが考えられた。

2.早咲きと遅咲きの個体の観察について
1)観察木の選定と調査方法
早咲き・遅咲き観察用に当たっては、樹勢が良いこと、樹形のバランスが良いこと、観察が容易なポイントであることを条件に、早咲きを2個体、遅咲きを3個体選定した。調査方法は、定点での写真記録と目視による記録を行った。尚、目視による記録については、「開花」を5〜6輪以上の花が開いた状態となった日、「満開」を80%以上の蕾が開いた日、「花の終わり」を80%以上の花が萎れた状態となった日とした。

2)結果
早咲き個体については、観察木の2個体(早咲きNo.1とNo.2)が1月6日に開花、1月20日に満開、2月10日に花の終わりとなり、定点観察(11地点)の結果(開花1月13日、満開1月27日)と比較すると開花日と満開日が1週間程度、早い傾向となった。

遅咲き個体については、観察木の遅咲きNo.1が2月18日に満開、3月2日に花の終わり、遅咲きNo.2が2月10日に満開、3月2日に花の終わり、遅咲きNo.3が2月10に満開、2月24日に花の終わりとなり、定点観察(11地点)の結果(満開1月27日、花の終わり2月18日)と比較すると満開日が2〜3週間程度、花の終わりが1〜2週間程度、遅い傾向となった。

2)調査木の選定及びヒカンザクラの生育特性調査

(1)調査木の選定
開花調査用に当たっては樹勢がよく、かつ、花芽形成数の多い個体を調査木とする必要がある。名護岳の植栽木のうち、桜の園より2個体、展望台付近より4個体樹勢が良い個体を選抜し、花形成数の確認を行った。その結果、桜の園2個体と展望台付近1個体の花芽形成数が多く、これを調査木とし以降調査を行った。

(2)生育特性調査
開花に関する生育特性を調査するため、花芽が充実する時期(10/26)より開花が終了するまでの間、花芽と蕾の経時測定と観察を行った。

ア)方法
①調査開始日(10/26)から開花するまでの間、調査木の花芽と蕾の大きさを約2週間おきに測定した。花芽の測定に当たってはノギスを使用し、花芽の付け根から最頂部までの長さと、最も幅が広い部分の直径の計測を行った。また、蕾の測定に当たってはデジタルマイクロスコープ(KEYENCE VHX-1000)を使用し、花芽から摘出された蕾のうち、最も大きなものについて直径を測定した。測定調査は指標木3個体より毎回ランダムに5個ずつ花芽を採集し行った。
②花芽が割れ始めた時期から落花するまでの間、指標木の開花に関する変化を1~3日おきに経時観察し、この間に起きる形態的な変化を9つのステージに分類した(図2-2-1)。観察調査は調査木3個体よりランダムに10個ずつ花芽を選出し行った。(桜の園の個体は1/26と1/30に花芽が1つずつ損失した。)

 
  • A.花芽が鱗片葉に覆われ、緑色の部分が見えない。
    A.花芽が鱗片葉に覆われ、緑色の部分が見えない。
  • B.鱗片葉が割れて緑色の部分が見え始める。
    B.鱗片葉が割れて緑色の部分が見え始める。
  • C.緑色の部分が半分以上を占める。
    C.緑色の部分が半分以上を占める。
  • D.頭部が割れ始める。
    D.頭部が割れ始める。
  • E.頭部が完全に割れる。
    E.頭部が完全に割れる。
  • F. 出蕾(1つ以上の蕾について、蕾の子房が苞よりも上に出たとき)
    F. 出蕾(1つ以上の蕾について、蕾の子房が苞よりも上に出たとき)
  • G.1つ以上の蕾について、花弁の長さが蕚の長さを完全に超える
    G.1つ以上の蕾について、花弁の長さが蕚の長さを完全に超える
  • H.開花(1つ以上の花について、花を正面から見たとき、おしべとめしべが見える。)
    H.開花(1つ以上の花について、花を正面から見たとき、おしべとめしべが見える。)
  • I.落花(すべての花について、5枚の花弁すべてがしおれた。)
    I.落花(すべての花について、5枚の花弁すべてがしおれた。)
  •  
  •  
  •  

図2-2-1 開花観察におけるステージごとの分類

イ)結果
調査開始日(10/26)から開花するまでの間、調査木3個体の花芽の長さと幅、蕾の幅を測定した結果、1/5~1/19の間で大きく増大することが明らかとなった(図2-2-2)。1/5頃は花芽の鱗片の隙間から緑色の葉が確認され始めた時期であるため、花芽の長さと幅の増大は肥大によるものではなく、花芽の展開によるものであった。蕾の大きさは10/26から12/22にかけて緩やかな増加を見せ、花芽と同様1/5~1/19の間で大きく増大した。当初、蕾の大きさの変化が花芽の大きさの変化よりも先行して起これば、開花予測をする上で蕾の観察が有効であると仮定したが、花芽と蕾の大きさの増大が同時期に起こること、また、蕾の摘出に労力がかかることから、開花予測をする上では花芽の観察のみで十分であると考えられる。今回の調査では花芽の展開が確認された1/5~1/12より約2週間後の1/19~1/28に開花した(図-2-2-3)。また、花芽の展開が始まる1/5頃の日平均気温が17℃前後であり、開花の始まる1/19頃の日平均気温が15℃前後であった(図-2-2-4)。この間の平均積算気温は223℃と228℃であった(表-2-2-1)。今回の結果から、花芽の展開日より平均積算気温が225℃程度に達すると開花に至ると推察される。しかし、年次間差や個体間差が多分にあると考えられるため、同様の調査を数年繰り返し、開花と温度に関するデータを積み重ねる必要がある。

 
  • 花芽の長さ
  • 蕾の幅
  • 花芽の幅

図2-2-2 花芽と蕾の大きさの経時変化(青と赤が桜の園の個体、緑が展望台付近の個体)

 

図-2-2-3 開花に関する形態の経時変化

図-2-2-3 開花に関する形態の経時変化。A~Iの意味については図2-2-1を参照。(青と赤が桜の園の個体、緑が展望台付近の個体)

 

2)ヒカンザクラの低温処理による開花調節
(1)方法
ア)ヒカンザクラの冷蔵(10℃以下)処理を、1日間(24時間)、3日間(72時間)、10日間(240時間)を実施、その後、露地栽培を行い、無処理株と開花状況の比較を行った。

イ)供試樹:プランター25ℓ鉢に栽培された5~6年生の株(開花実績のある株)を用いた。  〇株番号及び低温処理時間
1 ~ 3番:11月12日10時(水)~11月13日10時(木)までの24h( 1日)間
4 ~ 6番:11月12日10時(水)~11月15日10時(土)までの72h( 3日)間
7 ~ 9番:11月12日10時(水)~11月22日10時(土)までの240h(10日)間
10~12番:11月12日10時(水)~
無処理株

ウ)処理期間中の管理方法
①冷蔵庫内での灌水は、底から漏れない程度。湿らす程度で乾燥気味に管理した。
②露地では、乾いたら灌水するという通常管理を行った。
③昼間は蛍光灯下での照明、夜間は無照明。

開花状況記録について
①桜の開花は、5~6輪以上の花が開いた状態となった日とした。
②80%以上の蕾が開いた日を満開とした。
③80%以上の花が萎れた状態で花の終わりとした。

 

(2)結果
冷蔵処理した期間の温度は、表2-3-1のとおりであった。
11月12日から冷蔵処理期間を1日、3日、10日と変えて実証実験を実施した結果、10日間(240h)処理区において、処理後約30日で開花(平成26年12月21日から22日)が確認された。その際の平均積算温度は、560℃から580℃であった。3日(72h)処理区では、処理後61日から65日に開花(平成27年1月15日~1月19日)した。平均積算温度は、1,110℃~1,180℃であった。1日(24h)処理区では、処理後72日~75日で開花(平成27年1月24日~1月27日)した。平均積算温度は、1290℃~1350℃であった。無処理区の露地栽培の開花日は、平成27年1月2日~1月25日の間であった。今回の冷蔵処理による実証実験では、10日間の冷蔵処理で、他の処理区に比較して、明らかな開花促進の効果が見られ、休眠打破が行われたことが示唆された。また、開花日についても、他の処理区と比較して、揃っている傾向が見られた。しかし、1日、3日間程度の冷蔵処理では、無処理区と比較して、開花促進における顕著な違いは見られなかったことから、冷蔵処理による休眠打破は、おこらなかったものと推察される。

 

今後は、10日間を中心に、冷蔵期間を5日間、10日間、15日間、20日間を設け、冷蔵処理による開花促進の効果を再検証する必要がある。また、休眠打破がどの温度で、どれだけの積算温度で起こるのかを、調査していくことで、開花と積算温度の関係が明らかになり、開花日の予測が可能となると考えられる

 
  •  

図2-2-4 調査期間中の気温変化

 
  • 桜の園
  • 展望台付近

表2-2-1 花芽展開日から開花日までの積算温度


表2-3-1 低温処理した冷蔵庫の温度変化記録

 

平成26年12月31日のヒカンザクラの生育状況

  • No1.(H26. 12/31)
    No1.(H26. 12/31)
  • No2.(H26. 12/31)
    No2.(H26. 12/31)
  • No3.(H26. 12/31)
    No3.(H26. 12/31)
  • No4.(H26. 12/31)
    No4.(H26. 12/31)
  • No5.(H26. 12/31)
    No5.(H26. 12/31)
  • No6.(H26. 12/31)
    No6.(H26. 12/31)
  • No7.(H26. 12/31)
    No7.(H26. 12/31)
  • No8.(H26. 12/31)
    No8.(H26. 12/31)
  • No9.(H26. 12/31)
    No9.(H26. 12/31)
  • No10.(H26. 12/31)
    No10.(H26. 12/31)
  • No11.(H26. 12/31)
    No11.(H26. 12/31)
  • No12.(H26. 12/31)
    No12.(H26. 12/31)
 

平成27年1月25日のヒカンザクラの生育状況

  • 左から No1、No2、No3(H27. 1/25)
    左から No1、No2、No3(H27. 1/25)
  • 左から No4、No5、No6(H27. 1/25)
    左から No4、No5、No6(H27. 1/25)
  • 左から No7、No8、No9(H27. 1/25)
    左から No7、No8、No9(H27. 1/25)
  • 左から No10、No11、No12(H27. 1/25)
    左から No10、No11、No12(H27. 1/25)
 

平成27年2月11日のヒカンザクラの生育状況

  • No1(H27. 2/11)
    No1(H27. 2/11)
  • No2(H27. 2/11)
    No2(H27. 2/11)
  • No3(H27. 2/11)
    No3(H27. 2/11)
  • No4(H27. 2/11)
    No4(H27. 2/11)
  • No5(H27. 2/11)
    No5(H27. 2/11)
  • No6(H27. 2/11)
    No6(H27. 2/11)
  • No7(H27. 2/11)
    No7(H27. 2/11)
  • No8(H27. 2/11)
    No8(H27. 2/11)
  • No9(H27. 2/11)
    No9(H27. 2/11)
  • No10(H27. 2/11)
    No10(H27. 2/11)
  • No11(H27. 2/11)
    No11(H27. 2/11)
  • No12(H27. 2/11)
    No12(H27. 2/11)

6.参考文献

  • 上里健次(1993)沖縄のカンヒザクラに関する調査研究琉球大学農学部学術報告第40号
  • 上里健次、比嘉美和子(1995)ヒカンザクラの開花期とその地域差に関する研究 琉球大学農学部学術報告第42号
  • 宇根和昌(1995)リュウキュウカンヒザクラの開花特性に関する調査 熱帯植物調査研究年報16号
  • 小杉清(1976)花木の開花生理と栽培 博友社
  • 上里健次、安谷屋信一、米盛重保(2002)ヒカンザクラの開花の早晩性における地域間差、個体間差 琉球大学農学部学術報告第49号
  • 川上皓史、山尾僚、盛岡耕一、池田博、池田善夫(2009)温度変換日数法を用いたソメイヨシノの開花調節 Naturalistae13
  • 張琳、米盛重保、上里健次(2005)ヒカンザクラの開花時期,期間、花色濃度における固体間差と花芽形成に関する調査 球大学農学部学術報告第52号
  • 村上 覚、末松信彦、中村新一、杉浦俊彦(2008)カワズザクラにおける開花予測方法の検討 植物環境工学(J.SHITA)20(3):184-192
  • 村上 覚、加藤智恵美、稲葉善太郎、中村新一(2008)カワズザクラの多発休眠期における発育速度モデルの作成ならびに切り枝での開花及び品質に及ぼす気温の影響 園学研.(Hort.Res.(Japan))7(4):579-584
 

*1研究第二課

ページTOPへ