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  1. 6)沖縄における底面給水コンテナの機能性実証試験
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

6)沖縄における底面給水コンテナの機能性実証試験

安里維大*1

1.はじめに

夏季日中、屋上に置かれたプランターの設置面は60℃を超える日も多く微気象的に植物栽培上は過酷な環境といえる。今回使用するコンテナは観葉植物用に開発された底面給水コンテナ(eコンテナ)で観葉植物に対する機能性は十分確認されているが、野菜栽培に利用された例は千葉県で一例有るのみで、屋上において週1日程度の低管理で維持した話は皆無に近い。使用する床土は入手容易な地域の土を用いることが理想的で今回は沖縄産の土穣数種類を選択した。コンテナの機能性を十分に引き出せる土壌の組合せ、混合割合を見出すことが調査上の要となる。

2.期間及び方法

1)期間

平成25年7月26日~平成26年10月12日

2)調査方法

(1)調査概要
①実施場所
沖縄県南城市大里字高平高宮城原
イオンタウン南城大里の屋上
②試験規模

  • 図-1 屋上菜園の様子
    図-1 屋上菜園の様子
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屋上の140㎡のエリアに供試鉢(土壌充填容積 40ℓ、水タンク容積 20ℓ)を50基設置したが、今回の調査では沖縄の土壌を中心にしたコンテナ10基を調査の対象とした。

③供試鉢
供試鉢にeコンテナを使用した。
土壌充填許容容積45ℓ、水タンク容積20ℓ。

  • 図-2 eコンテナ断面図
    図-2 eコンテナ断面図
  • 図-3 底面給水コンテナ(eコンテナ)
    図-3 底面給水コンテナ(eコンテナ)

降雨等で過剰に水が供給された時、余剰水はオーバーフローする仕組みになっているため停滞水による根腐等の弊害は回避出来る。
従来、写真の穴の開いている部分にポットサイズに合った観葉植物を差込み、寄植え用プランターとして使用する。

  • 図-4 eコンテナを菜園用に利用する
    図-4 eコンテナを菜園用に利用する
  • 図-5 植付直後の様子
    図-5 植付直後の様子

菜園用として表面の蓋を取外しコンテナ内径に合った透水性素材の四角い袋状布の中に供試土壌を充填した。
コンテナ内土壌を24時間以上給水した後に地元南城市大里産野菜苗を植付けた。種類はオクラ、ナス、スイートバジル、ハンダマ、エンサイ、島ラッキョウなどである。

④供試材料(特に土壌)
国頭マージ、島尻マージ、ジャーガル、クチャ(ジャーガルの母岩)、ヤシ繊維改良材。

  • 表-1 沖縄の土壌の科学的性質
    表-1 沖縄の土壌の科学的性質
  • 表-2 沖縄の土壌の分布面積割合
    表-2 沖縄の土壌の分布面積割合
  • 図-6 eコンテナを菜園用に利用する
    図-6 クチャ(ジャーガルの母岩)を粉砕

⑤耕種概要
土壌の混合割合はヤシ繊維製改良資材25ℓ(62.5%)に対して各土壌を7.5ℓ(18.8%)と15ℓ(37.5%)を混合調整した。
化学肥料は使用せず有機栽培を前提に管理した。食害虫対策としてはマリーゴールド等のコンパニオンプランツやニームオイル等の忌避剤で対応した。

  • 表-3 コンテナ別・混合供試材料容量
    表-3 コンテナ別・混合供試材料容量
  • 表-4 肥料・改良材等のコンテナ毎施用量
    表-4 肥料・改良材等のコンテナ毎施用量
  • 図-7 コンパニオンプランツとしてマリーゴールドとバジル
    図-7 コンパニオンプランツとしてマリーゴールドとバジル

(2)判定方法
①土壌の判定:1年を1サイクルとし、栽培野菜の生育状況、収穫量、を元に最適な土壌の組合せと混合割合を見出す。
②コンテナの給水機能性の確認:給水間隔や給水量他。
③コンテナ別土壌温度の差異、混合土壌との関係よりコンテナの冷却機能性の確認を行う。

3.調査の結果

1)コンテナ別収穫量(供試作物全種)

(1)野菜別・コンテナ別収穫量
野菜別・コンテナ別の収穫量として以下①~⑦が良い傾向にあった。
図-2、表-5より、供試野菜6品目中、4品目で島尻マージ単独か混合土壌の収量が高い傾向にあった。

①コンテナ別収穫量(供試野菜全種類)

  • ①コンテナ別収穫量(供試野菜全種類)
    図-8 コンテナ別収穫量(供試野菜全種)
  • 表-5 コンテナ別・野菜収量(1位)
    表-5 コンテナ別・野菜の収量(1位)
  • 図-9 野菜収穫の様子(写真はエンサイ)
    図-9 野菜収穫の様子(写真はエンサイ)

図-8、表-5より、供試野菜6品目中、4品目で島尻マージ単独か混合土壌の収量が高い傾向にあった。

2)コンテナ別・野菜別・糖度

  • 表-6 コンテナ別・野菜別 糖度
    表-6 コンテナ別・野菜別 糖度
  • 図-10 コンテナ別・野菜別糖度(エンサイ)
    図-10 コンテナ別・野菜別糖度(エンサイ)
  • 図-11 コンテナ別・野菜別 糖度(島らっきょう)
    図-11 コンテナ別・野菜別 糖度(島らっきょう)

(1)結果
図-11,4、表-6より、収穫タイミングの問題から糖度の測定はエンサイと島らっきょうの2検体のみ。エンサイはA18、A19が島らっきょうはA19のコンテナの糖度が高かった。

(2)まとめ(土壌判定)
収穫量、糖度ともに島尻マージとジャーガル混合のコンテナに良い傾向が出ている。土壌混合割合を評価する中、上記でふれていないヤシ繊維素材は無視できるものではないが、全コンテナに対し同条件の25ℓ混合しており、土壌をシンプルに捉え絞込む為にあえてふれていないが、重要な役割をはたしていることは事実で、次期調査においては、詳細な化学性、物理性を調査する必要がある。

※県内でも度々干ばつ被害が出る団粒構造に富むが排水性の良い島尻マージ、ミネラル分の豊富なジャーガルとクチャ、自重の8倍程度の保水性を持つヤシ繊維素材、微気象、底面給水コンテナの機能性がマッチした時にはじめて当コンテナの能力を最大限に引き出すことが可能と考える。

3)コンテナの混合土壌別給水量

(1)コンテナ別・給水量他
①給水量

図-12 コンテナ別・給水量(4.5日間隔・平均値)
図-12 コンテナ別・給水量(4.5日間隔・平均値)
A11~A20の平均給水量は4ℓ/dayである。


表-7 調査期間中の気象データ
表-7 調査期間中の気象データ

表-8 eコンテナの水収支
表-8 eコンテナの水収支

調査期間中の降雨量・蒸発量を1日当に換算すると雨量で6mm/day、蒸発量で5㎜/dayである。9月の蒸発量の平均値は5.0㎜/day前後(南城市)、eコンテナより蒸発する水量は、1.4ℓ/day.
残り2.6ℓが植物に利用され、蒸散により失われる。
この期間の降水量は1.5ℓ/dayなので、降雨量と蒸発量がほぼ同じであった。
eコンテナは鉢底には余剰水用オーバーフロー孔が有り、土壌が飽和し、重力水がコンテナ底に1.4ℓ以上貯まった時点で排水される(表-8)。

(2)まとめ(保水可能容量)
沖縄の夏期、毎日の灌水を4.5日間隔の給水により維持できるメリットは大きい。理論上は9日近くまで給水間隔を延ばせる可能性があるが、実際は有効容水量以下になった瞬間から毛管遮断や様々な状況が表出してくると想定され、何日間隔まで延ばせるかは、実際の確認と数多のデータ集積のみにより判るものであり、今後の調査課題である。

4)コンテナ別・地温他

(1)土壌温度
①コンテナ別・測定深別・土壌温度

表-9 土温度測定時間帯の気象データ
表-9 土温度測定時間帯の気象データ
※測定当日の気象データ(南城市) 気象庁 過去の気象データ より抜粋

図-13 コンテナ別・測定深別・土壌温度
図-13 コンテナ別・測定深別・土壌温度

図-14 コンテナ・測定深別・温度差
図-14 コンテナ・測定深別・温度差

コンテナ内土壌表面下20cm、10cm、1cmの温度を測定した結果、土壌表面に近づくほど温度が低く、深度が深くなる程に温度が低くなり一般耕地とは逆の傾向が出た。一般耕地における地温と気温の関係は 気温>地温(浅い)>地温(深い)。

②コンテナ別・測定深別・温度差
図-15はコンテナ内土壌表面下の20cmの温度と1cmの温度差を表した図である。コンテナにより最低で0.6℃、最高で2.9℃の温度差がみてとれる。

(2)まとめ(コンテナ別・温度・温度差)
A11~A20の地表下1cmの平均温度は30.3℃で地表下10cmで30.6℃、地表下20cmの平均温度は31.8℃であり、土壌温度は測定深が浅くなるにしたがい温度が低くなる傾向にある。直射光の当たる土壌表面が一番低い傾向にある。土壌表面は見た目に、常に湿っている状態であり、底面給水による毛管水の上昇とあいまって気化冷却が行われていると考えられる。

5)まとめ(総合)

(1)土壌
今回の試験では、A19(島尻マージ+クチャ)やA12(島尻マージ)の島尻マージ単独と混合コンテナに収穫量、糖度など野菜生長上の優位性が見られた。島尻マージの物理性の良さ、クチャ、ジャーガルのミネラルの豊富さ、ヤシ繊維素材の自重に対する8倍強の保水力が相まって結果に繋がった要因の一つと考えている。

(2)温度
温度差においてA12(島尻マージ)、A13(クチャ)、A17(国頭マージ、ジャーガル)の温度差が大きく、各種異なる土壌にわたっており、土壌の違いによる温度差の傾向は見出せなかった。

(3)コンテナ
屋上菜園において、灌水時間の省力化と気化冷却による植物体へのダメージ緩和機能は底面給水コンテナの特筆すべき点である。

(4)今後に繋ぐための留意点
屋上内での土壌リサイクルシステム屋上菜園で出た残渣物を屋上外へ移動することなく(閉鎖系)土壌の有効活用(長く使う)を行う。
科学肥料を使った高収穫農法ではなく難分解性有機物(ヤシ繊維資材等)を利用した不耕起、炭素循環型に近い緩やかなサイクルのオーガニック農法が向いていると考える。
多収穫と良質作物の収穫を分けて考え忌地化(sick soil)を防ぐために、線虫対策としてはコンパニオンプランツ(ネギ類、マリーゴールド)、や海藻に含まれるメチオニンなどの効果に期待している。
また、休耕サイクルの中にマメ科緑肥栽培や、スプラウトの栽培も組み込むことも考えられる。
収穫物残渣や落葉などを利用したコンポスト作り専用のコンテナを作るのも良いと考えており、定期的な米糠・糖蜜施用により乳酸発酵や酵母の力により土を蘇らす工夫も必要となる。米糠等混合材料が関与する害虫の増減傾向に留意する必要も出てくるであろうから、屋上におけるオーガニック農法+コンテナ栽培においてはIPM(総合的病害虫管理)的視点で耕種的部分は特に注意して進める必要がある。

 

*1研究第ニ課

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