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  1. 7)海洋博公園内小動物(昆虫類)等調査
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

7)海洋博公園内小動物(昆虫類)等調査

島袋 林博*1・峯本 幸哉*2・瀨底 奈々恵*1

1.はじめに

海洋博公園内の昆虫類については、過去に数回調査が実施されており、これまでに742種が報告されている。また、その中には、沖縄県版レッドデータブックに準絶滅危惧(NT)として掲載されている、コノハチョウ、フタオチョウ、オキナワキリギリスなどの希少な昆虫類が含まれている(沖縄県自然保護課, 2000)。このような希少種を含む多様な昆虫類が確認された背景には、自然度の高い既存林や多様な植栽植物によって、公園内に豊かな自然環境が形成されていることが考えられる。
平成26年度は、海洋博公園内の小動物生息状況を把握し、また環境保全及び環境教育に役立てることを目的として、調査を行った。

2.調査内容

1)チョウ類調査

図-1 オオゴマダラ
図-1 オオゴマダラ

平成26年8月に予備調査を行い、11月と3月に本調査(ラインセンサス法)により、チョウ類の生息確認調査を行った。
調査地の中で一番確認種数が多かった場所が熱帯ドリームセンター周辺となった。建物や植栽地がパッチ上に点在し周辺の自然環境が比較的多様であることやチョウ類の蜜源となる草花等が多数植栽されている事、さらには園外の北側に隣接する林等が広がっている他、南側の海岸部にも比較的良好な既存林が残されており、周辺の自然度が高い地域である事が要因と考えられる。

2)昆虫類調査

平成26年8月に予備調査を行い、10月、11月、3月に本調査(任意採集法、ベイトトラップ法、ライトトラップ法、灯火採集)により、昆虫類の生息確認調査を行った。
調査地の中で一番確認種数が多かった場所は熱帯・亜熱帯都市緑化植物園であった。当該調査地は、都市緑化に有用な様々な植物を植栽している場所で、区間の大部分が人工的な環境ではあるものの、熱帯ドリームセンター周辺同様、林や海岸林に囲まれている事から、昆虫の繁殖場所や休息場所となって、確認種数が増加したものと思われる。

(1)貴重昆虫類について
今回の調査において、沖縄県の天然記念物であるフタオチョウが熱帯ドリームセンター下の花壇の周辺で、また、沖縄県版レッドデータリストに掲載されているオキナワキリギリスが熱帯・亜熱帯都市緑化植物園と熱帯ドリームセンター周辺でそれぞれ確認された。
(2)海洋博公園内の昆虫リスト
平成26年度の調査で確認された昆虫類は11目52科82種であった。この結果に、過去実施された調査の結果を統合し、現時点での海洋博公園内で確認された昆虫類のリストを作成し、整理を行った結果、18目205科850種となった(表-1)。

3)沖縄の昆虫類を用いた環境教育に関する調査

図-2 展示の様子
図-2 展示の様子

平成26年7〜8月に、熱帯ドリームセンターでは初となる昆虫をテーマとした展示会を行った。琉球大学資料館(風樹館)との共催により、国内希少野生動植物に指定されている「ヤンバルテナガコガネ」のパラタイプ標本をはじめとした沖縄県版レッドデータリストに掲載されている希少な昆虫類を中心に、約200種、420点余りの標本と関連資料約100点を展示した。特に、海洋博公園が位置する本部町で記録されているチョウ類については、ほぼ全種に当たる約80種の標本展示を行った。これらの展示標本については、詳細な解説パネルを設置し、会場で配布したワークシートとリンクさせながら効果的に学習が行えるようにした。また、関連イベントとして講演会や教室を熱帯ドリームセンター内で実施し、相乗効果による理解度増を図った。

(1) ワークシートの配布
沖縄の自然環境や希少な昆虫類の現状を理解してもらうとともに、人と昆虫との関係について考える機会を提供するために、展示内容に沿ったやや専門的な質問を含むワークシートを作成して会場で自由配布を行った。

(2) アンケートの実施
今回の昆虫展における見学者の関心の程度や興味の内容等に関する情報を得るため、アンケートを実施した。期間中に回収できたアンケート数は345枚(県内:124枚,県外:121枚,不明:100枚)、回収率は約3%であった(期間中会場入室者数:12,558名)。
沖縄の自然保護や生物について関心があるかとの質問に対しては、半数以上の人が「大変関心がある」と答え、これに「少し関心がある」を加えれば、全体の96%の見学者が関心を持っていた。また、どのような自然環境に関心があるかとの質問に対しては、「海とサンゴ」と答えた方が県内で25%、県外で38%あり、「やんばるの森」と答えた人が県内で25%、県外で20%となり、県外の人は「やんばるの森」よりもやや「海やサンゴ」に高い関心があった。このほか、県内の人では、「家の周りの身近な自然」と答えた方が17%あり、県内では身近な自然にも関心が高いことが分かった。「沖縄の自然や生物のことを知っているか」との質問に対しては、よく知っていると答えた人は、県内で8%、県外で3%といずれも低い割合であったが、少し知っている人の割合は県内で63%、県外で49%あり、比較的高い割合となった。これは、沖縄の自然を扱ったテレビ番組などの影響が高いものと思われる。
「沖縄の自然環境や生物についてどんなことを知りたいか」という質問では、県内外ともに「沖縄の生物の生態」と答えた人が18%、「沖縄の生物の名前や分布」と答えた人が約15%、「沖縄の自然環境の特性」が約12%、「沖縄の生物の多様性」が約10%であり、環境問題や多様性に関することよりも、一般の方たちは生き物の生態に興味がある結果となった。これに関連し、「これまで環境教育の講座や講演会などに参加したことがあるか」という質問でも、県内外ともに70%以上の人が「参加したことがない」と答えている。この結果からは、環境教育に関連した講演会や展示においても、ユニークな生物の生態などを盛り込んで興味を持って環境問題を学習できるプログラム作りが必要であると考えられる。

3.今後の課題

今回、昆虫類の調査と過去調査のまとめを行ったが、ひきつづき調査を継続し、園内における小動物生息状況の把握を行いたい。また、平成26年度から開始した昆虫をテーマにした展示会も、ひきつづき開催し、加えて教室や観察ツアー等の関連イベントも拡充しながら行いたい。さらに、過去に実施した鳥や爬虫類・両生類等の調査結果を踏まえ、総合的な環境保全及び環境教育に関するノウハウの構築を図る。

 

*1植物管理チーム、*2事業推進部

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