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  1. 1)鯨類に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

1)鯨類に関する調査研究

小林希実*1・岡部晴菜*1

1.はじめに

現在、世界で89種の鯨類が確認されており、南西諸島ではこれまで全鯨種の約3分の1に相当する30種が確認されている。これらの基礎情報を得ることは鯨類に限らず海洋生態系の保護・管理を行う上で重要であり、当財団では南西諸島における鯨類の生息状況や資源状態の把握を目的とし情報収集や調査を行っている。ここでは本年度実施した同事業について報告する。

2.鯨類のストランディング調査

表-1 ストランディングが確認された鯨類
表-1 ストランディングが確認された鯨類

図-1漂着したザトウクジラ
図-1漂着したザトウクジラ

鯨類は稀に死亡漂着(死亡した状態で海岸等に打ち上げられること)、迷入(本来生息域でない沿岸や河川等に迷い込むこと)、座礁(生存した状態で海岸に打ち上げられること)、混獲(生死を問わず定置網等に意図せず捕獲されること)が確認され、これらをストランディングと呼ぶ。
当財団では南西諸島における鯨類相を把握するため、鯨類がストランディングした際に、種や大きさ、場所などを記録している。平成27年度の調査では、計4科5種が確認された(表-1)。
嘉手納町に漂着した体長6.3mのザトウクジラは、その体長が性成熟個体(平均11~16m)に比べ小さかったことから、亜成熟個体であると推定された(図-1)。また、本種は昨年、今年と連続して沖縄本島で漂着が確認されており、また近隣の定置網内での混獲も確認されている。現在、沖縄近海における本種の推定来遊数は増加傾向にあるため、今後も死亡漂着や混獲事例が増加する可能性が示唆される。

3.ザトウクジラ調査

図-2 調査風景
図-2 調査風景

図-3 尾びれ腹面写真(個体毎で模様等が異なる)
図-3 尾びれ腹面写真(個体毎で模様等が異なる)

ザトウクジラは夏季に摂餌のため高緯度海域へ、冬季には、繁殖、育児のため低緯度海域へ回遊する。沖縄周辺海域では例年1~3月に同種の来遊が確認されており、当財団では、本種の来遊量や繁殖生態を明らかにするため、1990年より個体識別を主とした調査を継続している(図-2)。
本種は尾びれ腹面の模様や後縁の形状が個体ごとに異なっており個体識別が可能であり(図-3)、平成27年度は調査海域である慶良間諸島周辺海域と本部半島周辺海域合わせて、のべ540頭分の写真を撮影することができた。これらの写真と過去に撮影された写真を比較し、個体識別された本種の尾びれ写真カタログを作成し、随時補完している。この作業によって、これまでに約1400頭分の個体識別を行ってきた。
また、沖縄と他海域間の回遊を調査するため、各地のホエールウォッチング関係者に尾びれ写真の提供を依頼している。平成27年度は那覇56頭、奄美大島160頭、沖永良部島10頭の尾びれ写真を提供いただいた。今後これらの提供写真と当財団の尾びれカタログとの照合を実施する。

4.ザトウクジラ会議の開催

図-4 会議の様子(沖縄県トラック協会・那覇市)
図-4 会議の様子(沖縄県トラック協会・那覇市)

昨年に引き続き、ホエールウォッチング(以下WW)事業者を対象とした「沖縄ザトウクジラ会議2015-クジラの鳴き声の謎に迫る-」を実施した(図-4)。27年度は常磐大学の中原史生教授を講師としてお招きし「イルカ・クジラの鳴音からわかること」と題して講演を頂いた。また、当財団が行っている鯨類の野外調査等を通して得られた情報を紹介し、WWツアーにおけるサービス内容の質向上等に役立てて頂くことをテーマに財団職員2名が講演を行った。県内の事業者ら16社33名の参加があり、特に質疑応答では、日頃WWツアー中で感じる疑問など多くの質問が寄せられた。

5.ザトウクジラ調査報告ページの開設

図-5 財団ホームページ上のザトウクジラ調査報告ページ
図-5 財団ホームページ上のザトウクジラ調査報告ページ

調査、研究より得られた情報をより広く発信することを目的に、財団ホームページ上に「ザトウクジラ調査」ページを新たに開設した(図-5)。同ページでは、ザトウクジラ調査を実施している1~3月の間、当財団の調査や、関係事業者からの提供情報をもとに、日々のザトウクジラ発見頭数や識別された個体の情報等を掲載した。調査期間中は頻繁に情報更新を行い、同期間中にのべ1544回の閲覧があった。

 

*1研究第一課

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