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  1. 琉球文化財研究室
沖縄美ら島財団総合研究所

琉球文化の調査研究

琉球文化財研究室

上江洲安亨*1

1. はじめに

琉球文化財研究室は、首里城に関する資料収集、調査研究、技術開発及び普及啓発を行うとともに、首里城公園管理部が維持管理を行う首里城公園の利用促進につながる活動を推進する。また、琉球・沖縄地域の海洋文化に関する調査研究活動を行った。平成29年度は第III期中期事業計画の3年目として調査研究事業では漆塗装関連調査で、琉球螺鈿の技法の実験サンプルを製作した。琉球食文化に関する調査研究では、「琉球料理 美榮」の料理を記録保存したほか、古文書から食文化に関する情報を抽出した。また、首里城開園25周年記念特別展を園内外で開催した。また清代中琉関係档案選編等の刊行助成を行った。他にも財団所蔵資料の書跡修繕を実施し材質分析、首里城基金を活用した収蔵品収集調査の実施、地域の海洋文化に関する事例調査を行った。外部から受託事業として沖縄県立博物館・美術館発注の琉球王国文化遺産集積・再興事業、伊是名村の銘苅家・名嘉家旧蔵品修復復元業務を引き続き受注し、西原町から復元模造品製作業務も受注した。首里城公園の維持管理業務のサポートとして企画展等の広報・発信業務に関する応援等を行った。普及啓発事業として首里城講座を実施した。地域貢献として大学や地域団体が主催する講座への講師派遣を行い、首里城の歴史文化を普及啓発した。このような様々な活動に関する記録・紹介を行うため年報を刊行した。国宝尚家文書等複製本製作では、那覇市歴史博物館が所蔵する家譜のデジタル化を行った。

2.実施体制


図-1 琉球文化財研究室体制図

琉球文化財研究室の体制は正職員3名、フルタイム専門員2名であった。8月に西原町受託業務のため、フルタイム専門職1名、9月に食文化調査研究のため、フルタイム専門職1名を採用し、体制を強化した。

3.実施内容

1)漆塗装検討業務

琉球螺鈿の技法の一つであるヤコウガイを煮沸し真珠層をとりだす煮貝技法と真珠層を摺って加工する摺貝技法の実験サンプルを製作した。

2)琉球食文化に関する調査研究

「琉球料理 美榮」の料理について記録を保存し、学識経験者へのヒアリング調査を行った他、尚家・松山御殿の行事料理についてヒアリング調査と記録ノート・写真複写を収集した。また、王国時代の食文化に関する先行研究、鹿児島に残る料理関係の古文書「石原家文書」を収集した他、尚家文書から料理や庖丁人に関する記述を収集・抽出し、一部翻刻作業を行った。

3)首里城公園25年~平成の復元~

首里城公園とおきみゅーを会場に、特別展を開催し、絵画・漆器・書跡・染織を展示した。また特別展の図録を刊行し、県内公立図書館等へ配付した。

4)資料収集・修繕事業

・資料収集事業
 首里城基金を活用した琉球文化財収集事業では、有識者を招集した評価委員会を実施し、琉球関係陶芸2件・絵画4件・漆器6件の収集に成功した。
・清代中琉関係档案選編刊行助成
 台湾故宮博物院・琉球大学と連携し、台湾故宮に眠る琉球関係档案の史料集刊行事業実施の調整及び助成を行った。
・収蔵品修繕事業
 財団所蔵絵画資料のうち、尚家資料に残る中国人絵師、孫億の「花鳥図」の2幅目の修繕を行った。解体修理の結果、絹本の資料に裏彩色を施していることが分かった。
・舟漕儀礼等に関する調査
 琉球王国時代の海洋文化・農耕文化等の調査研究を行い、海洋博公園・首里城公園での祭祀再現催事の実施や将来の映像資料のストックに役立てるため各地域の祭祀儀礼の事例調査を行った。今年度は、舟漕儀礼として糸満市名城・喜屋武のハーリーの事例調査を行った。

5)受託研究

沖縄県立博物館・美術館が発注の琉球王国文化遺産集積・再興事業に㈱国建と企業共同体を組み受注した。8分野の工芸部門(絵画・木彫・石彫・漆芸・染織・陶芸・金工・三線)で復元製作委託業務を行い、12件が完成した。また伊是名村が発注の銘苅家・名嘉家旧蔵品修復復元業務を受注し、古文書の修復や漆器の修繕と復元、陶器と金工品の復元を行った。西原町発注の復元模造品製作業務も受注し、漆器や金工品の調査を行った。これらの受託業務は、これまでの財団の文化財復元研究のノウハウを活かし効率的に業務を実施することができた。これらの受託業務の成果から将来、首里城公園の展示に資する復元製作研究の実施も期待される。

6)普及啓発事業

・首里城講座
 首里城講座を5期14回実施し、356名が受講した。
・年報の発行
 調査研究の成果、収蔵品修繕の内容や修繕時にしか行えない理科学調査結果を公開するために年報の発行を行い、県内公立図書館・大学図書館等の公共機関へ配付した。
・国宝尚家文書複製本製作事業
 前年度に引き続き、那覇市歴史博物館に所蔵の琉球王国時代の士族の証明であった家譜をスキャニングし、デジタル化(CD-ROM)を行った。デジタル化することにより記事・内容の検索が簡易になり、首里城関係の調査研究のための基礎史料として活用するものである。

4.今後の課題


図-2 琉球文化財研究室の事業と今後の展開

琉球文化財研究室における調査研究事業は、図-2の実線で示した各事業を行っている。事業全体を公園機能の向上、文化環境の保全・継承、首里・沖縄地域の文化・産業振興、財団の発展の4つの方向性から見ると、これまでの首里城公園の運営面から派生した復元研究の実績により、公園機能の向上に軸足を置きながらも、全ての分野に広がった事業内容となっていることがわかる。
今後とも、首里城及び琉球王国の歴史文化に関する調査研究をさらに深化させながら、地域の自治体や事業や地域振興に貢献する活動を行っていきたい。
平成29年度も県博や伊是名村から復元製作業務を受注し、さらに西原町の業務も受注した。これまでの当財団の復元製作のノウハウが外部から評価されたことと思われる。これからも首里城公園の維持管理だけでなく、文化・産業振興の発展に大きく寄与できるよう、室員全員で調査研究に励んでいく所存である。
琉球の食文化に関する調査研究は、「美榮」に残されたレシピや料理手順を記録保存する調査を継続して行った。また琉球王国時代の文献史料を解読し、食文化に関する用語を抽出した。今後も引き続き地道な作業を進めながら、王国時代の料理や県内外との関係性を解明したい。
その他、沖縄県立博物館・美術館開館10周年記念首里城公園開園25周年記念展を開催した。また、琉球楽器催事検討業務についても調査を開始し、将来的には首里城公園内で演奏会を開催することを検討していく事業である。また首里城基金講座を首里城公園で実施した。継続して講座を園外でも開催し、首里城基金について普及啓発を積極的に行っていきたい。


*1琉球文化財研究室

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