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  1. 8)水産業振興に関する技術開発
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

8)水産業振興に関する技術開発

冨田武照*1・村上 茜*2・芦田裕史*2・廣瀬博子*2・岡 慎一郎*1

1.はじめに

沖縄北部地域において、カツオ漁をはじめとした漁業の衰退が問題となっており、これまでの漁業の復興と同時に、養殖漁業など新規事業の開拓が求められている。これらのニーズに応えるべく、(1)養殖対象魚種の新規開拓、(2)養殖魚の商品価値の向上、(3)カツオ漁での釣り餌の安定的確保に関する技術開発の三点において研究を行った。

2.水族館での採取卵を用いた養殖技術の開発

写真-1水族館でのスマ採卵の様子。水槽上部の排水路に網を並べることで、卵をトラップする
写真-1水族館でのスマ採卵の様子。
水槽上部の排水路に網を並べることで、卵をトラップする


写真-2水族館で繁殖したグルクマの幼魚
写真-2水族館で繁殖したグルクマの幼魚

魚類の養殖において、養殖用の卵を採取するために親魚の飼育が必須であるが、そのコストは無視できないほど高額である。一方、沖縄美ら海水族館では、漁業有用種を含む親魚が常時飼育されており、水槽内で繁殖が行われているが、卵の大半は活用されていない。そこで、水族館で得られた魚卵を有効活用した養殖技術開発を行っている。
研究対象種として、スマとグルクマを選定した。スマはサバ科の小型〜中型魚類であり、風味が良く肉の油の乗りが良いことなどから高値で取引されている。また比較的狭所で飼育でき、成長が速いことから養殖対象種として注目されている。しかし、沖縄県での成功例はなく、養殖技術の確立が求められている。 我々は水族館の展示水槽「黒潮の海」の排水路に設置した網で採卵を行い(写真−1)、仔魚の育成を試みた。水族館においては、ワムシとキビナゴミンチなどを初期餌料として、生後40cmまでの育成に成功した。一方、琉球大学瀬底研究施設に卵を運搬して飼育を試みた個体については、約2週間以上の飼育には至っていない。原因を検討したところ、運搬時の30度近い高水温と振動によるストレスが考えられた。水族館と連携した飼育体制の構築が今後の課題である。
グルクマはサバ科の中型魚であり、沖縄県において広く食用として利用されている。しかし、養殖対 象種となったことはない。そこで、我々はスマと同様の方法で魚卵を採集し、世界初の育成に成功した(写真−2)。育成した幼魚は、水族館にて展示を行なった。仔・稚魚の生存率の向上が今後の課題であるが、本研究によって得られた初期餌料や仔・稚魚の成長に関する知見は、養殖技術の確立に寄与するものである。

3.養殖魚の商品価値向上に関する調査

養殖漁業において、餌料の選定は味や価格に直結する重要な問題である。そこで、我々はハタ養殖に用いる人工餌料の評価を行なった。飼育しているヤイトハタを二群に分け、それぞれ異なった人工餌料(餌料A・B)を与えて一年間育成を行なった。体重約1キロに育成した段階で、一般人24人に対して食味試験を実施し、両群の違いを検討した。その結果、油の乗り(餌料A>餌料B)と肉の硬さ(餌料B>餌料A)において有意差が見られたものの、味の総合評価(どちらが美味しかったか)においては差が見られなかった。
また、本部町でレストランおよび宿泊施設を経営する9事業者に養殖したヤイトハタを提供し、商品としての適正についてアンケート調査を行なった。その結果、天然魚に比べて身が綺麗であることや、臭みが少ないなどの優位性がある一方、サイズや値段において課題があることが明らかとなった。

4.深海魚の人工繁殖技術に関する研究

写真-3人工受精により誕生したリュウグウノツカイ仔魚
写真-3人工受精により誕生したリュウグウノツカイ仔魚

深海魚の中には、漁業対象種として有用なものが多く含まれており、これら深海種の養殖技術の開発が望まれている。一方、多くの種では生態学的知見が限られており、初期育成の大きな障壁となっている。そこで、水族館では、成魚を繁殖させることで卵を採取し、初期育成のためのデータ蓄積を行なっている。具体的には、深海性フエダイとバラスズキの採卵と仔魚の育成を行い、現在も継続中である。また、新たな初期餌料の可能性を探るため、プロアレスワムシの培養技術を獲得し、大量培養に向けた試験を行なっている。
また、読谷漁港で混獲された雌雄のリュウグウノツカイ親魚から得た配偶子を用いて人工授精を行い、世界初の孵化に成功した(写真−3)。得られた観察結果について、生きたリュウグウノツカイの卵と仔魚の映像および行動生態に関する情報を得るとともに、その成果を原著論文として発表した。

5.漁業への餌の安定供給に関する特許技術の取得

図-1魚類捕獲装置(上)と、捕獲された小魚(下)

図-1魚類捕獲装置(上)と、捕獲された小魚(下)
図-1魚類捕獲装置(上)と、捕獲された小魚(下)

本部町におけるカツオ一本釣り漁の衰退の原因の一つとして、釣り餌となるミジュン等の小魚の安定的な確保が難しくなっている点が挙げられる。そのため、我々は小魚の捕獲のための仕掛けと、生簀機能を併せ持つ装置の開発を行ない、特許を取得した(特許第6498468号)。ミジュンなどの小魚が光に集まる性質を利用して、仕掛け内に小魚を誘導し、仕掛けの入り口を閉じることにより生け捕りにする。仕掛けは生簀としての機能を併せ持つため、捕獲したミジュンを仕掛けの中で一定期間生きた状態で維持し、必要に応じて釣り餌として利用する。この技術はメディアを通して事業者に広く公報するとともに、講演会などを通じた普及活動を行なった。

6.外部評価委員会コメント

スマに関しては、目標が未達成であり、今後の継続研究で目標達成を期待する。養殖ハタに関しては、目標をほぼ達成し、養殖の可能性を示唆できた。深海魚の人工繁殖に関しては、その困難性にも関わらず、一歩一歩成果をあげている。(仲谷顧問:北海道大学名誉教授)


*1動物研究室 *2水族館事業部 魚類課

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