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  1. 9)タイワンハブ駆除技術開発
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

9)タイワンハブ駆除技術開発

笹井隆秀*1・岡 慎一郎*1

1.はじめに

タイワンハブは台湾および中国南部、インドシナ半島北部などに広範囲に生息する有毒ヘビの1種であり、特定外来生物に指定されている。沖縄本島内では、平成5年に名護市での定着が確認されて以降、分布域は拡大しており、外来種対策や公衆衛生上の観点から生息数を減少させる必要がある。そこで本事業では、名護市の複合施設「なごアグリパーク」におけるスタッフや来客の咬傷リスクの低減を目的とした防除活動を通して、効果的な防除手法の開発を目指し、以下の取り組みを実施した。

2.侵入防止対策の実施および効果検証

写真-1 侵入防止柵の様子
写真-1 侵入防止柵の様子

写真-2 トラップにて捕獲されたタイワンハブ
写真-2 トラップにて捕獲されたタイワンハブ

なごアグリパークでは、平成29年からタイワンハブの駆除を実施しており、平成30年11月からは施設外縁に侵入防止柵(ナイロン製ネット750m分)を設置し(写真-1)、柵の内外の捕獲状況から、侵入防止対策の効果の検証を試みている。侵入防止柵の設置から約1年の間に、柵の外側では36個体が捕獲された(写真-2)一方、内側では1個体も確認されなかった。したがって、侵入防止柵はタイワンハブの侵入を制限しうることが明らかになったと同時に、柵の外側に比べて内側の危険性が大幅に低減されたことが明らかであった。今後も同様の検証を継続し、長期的な効果について明らかにする予定である。

3.生態調査

写真-3 タイワンハブの計測の様子
写真-3 タイワンハブの計測の様子

当財団は、防除によって得られた個体を用いて、生態学的情報の収集も行っている。本調査では侵入防止柵の外側で捕獲されたタイワンハブの大きさや性別を記録(写真-3)するほか、解剖によって胃内容物の有無などを確認した。その結果、捕獲個体の性比はほぼ1:1で性別の偏りはなく、雌雄ともに多くの個体が未成熟であった。頭胴長(頭から総排泄孔までの長さ)はオスで500mm台、メスで600mm台が多く出現した。また、捕獲時に胃内容物を保持していた個体は2個体のみで、大半は空胃であった。胃内容物からは琉球列島の固有種が確認され、特定外来生物に指定されている本種が在来生態系に捕食者として影響を及ぼしている確実な物証を得た。なお、これらの結果については、日本爬虫両棲類学会第58回大会で発表した。

4.疑似餌トラップの開発とIOT化の検討

写真-4 ネズミ(左)に似せた疑似餌用USB熱源(右)
写真-4 ネズミ(左)に似せた疑似餌用USB熱源(右)

写真-5 疑似餌に対するハブ類の感応試験
写真-5 疑似餌に対するハブ類の感応試験

現在、ハブ捕獲トラップには誘因用の餌として生きたハツカネズミが使用されている。しかし、ネズミの管理およびトラップの見回りに多くの労力が必要であるとともに、近年社会的にも関心が高まっている動物倫理の観点からも生体に頼らない誘因餌の開発が望まれている。そこで、当財団では、誘引物の非生物化について、ハブ類が獲物の特定に使用する嗅覚と温感に着目し、開発を試みた。平成31年1月より、におい成分を付した小型USB熱源(写真-4)を疑似餌としたトラップを野外に設置し、捕獲を試みている。しかし現在のところ実績はない。また並行して沖縄こどもの国と連携し、疑似餌へのハブ類の感応試験を実施(写真-5)しており、これらの結果を受けて順次改良を加える予定である。
近年、デバイスに通信機能を搭載することで、機能を大幅に向上させるIOT(Internet of Things)化が様々な場面で導入されている。そこで、タイワンハブ捕獲用トラップに通信機能を付帯し、捕獲時や異常が生じた場合に通知する機能を持たせられれば、中枢管理が可能となり、見回りの頻度を下げるなどの大幅な省力化が可能となる。現在、タイワンハブが捕獲されたことを感知し、携帯電話に通知するシステムを検討しており、当財団も参画している世界自然遺産推進共同企業体の取り組みとして各種企業と検討を開始した。

5.今後の展開

今後もなごアグリパークの安全性を高めるために、侵入防止柵を用いた防除とその効果の検証を継続するとともに、周辺施設を含めたより広範囲での防除の可能性について検討する。また、捕獲サンプルの分析等により、まだ不明点が多いタイワンハブの生態をより明らかにし、生息環境や行動範囲、繁殖期などの生態情報を応用した効率的な駆除方法の確立を目指す。さらに、並行してハブの感応試験を進め、誘引用の疑似餌を改良するとともに、外部機関との連携も含んだIOT化についても推進する。

6.外部評価委員会コメント

これまで沖縄県ではハブ駆除に関して、膨大な研究例がある。本研究ではそれと差別化できる研究計画の策定を期待したい。(亀崎顧問:岡山理科大教授)


*1動物研究室

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