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  1. 4)染織品理化学調査業務
沖縄美ら島財団総合研究所

琉球文化の調査研究

4)染織品理化学調査業務

宮城奈々*1・仲宗根あい*1

1.はじめに

平成22年度以降、当財団が所蔵する近世琉球期の美術工芸品について先端的な科学技術による調査を実施しており、その成果は歴史研究(交易史)や技術研究(復元製作や修繕・修復における色材・彩色技法の選定・検討等)、展示会や講座における資料解説の基礎的情報として活用されている。
染織資料においては、国内外の文化財資料に使われる無機顔料・有機染料の非破壊分析において実績があるデンマテリアル(株)色材研究所に依頼した。デンマテリアル㈱が独自に研究開発した携帯型の光ファイバーを用いる三次元蛍光スペクトルや蛍光X線による非破壊分析機器により、分析調査から解析までが実施された。今年度を含めると、これまで調査した41点の染織資料に使われた色材の同定データ(無機顔料は同定されているが、有機染料には未検出が多い)が蓄積されたことになる。その調査結果を受けて、琉球文化財研究室では近世琉球期の染織製作技術について調査・研究を行っている。
なお、本調査は那覇市歴史博物館と覚書を締結し共同で調査を実施した。

2.染織品理化学調査

1)調査期間・場所・日程

 期間:2019年10月20日~10月27日
 場所:那覇市歴史博物館内(収蔵庫前室)
 日程:10/20 分析機器開梱と設置
    10/21-22-23 那覇市所蔵資料の分析
    10/24-25-26 財団所蔵資料の分析
    10/27 分析機器梱包

2)理化学調査者

下山 進(デンマテリアル㈱色材研究所)
下山 裕子(同上)
佐々木 益(株式会社半田九清堂)

3)調査の事前資料

衣裳資料から模様の1パターンを抽出し、その中で調査ポイントを指示するための資料を作成した。事前資料の目的は、調査依頼を明確にすることである。

[調査資料:4点]
No.828木綿白地桜流水両面紅型単衣裳(写真-1)
No.465絽織染分地鶴と松梅菊両面紅型胴衣(写真-2)
No.471木綿白地松竹梅菊に稲妻両面紅型裂地(写真-3)
No.470木綿白地鶴菊松皮菱流水単子供衣裳(写真-4)

  • 画像
    (写真-1)No.828の1パターン
  • 画像
    (写真-2)No.465の1パターン
  • 画像
    (写真-3)No.471の1パターン
  • 画像
    (写真-4)No.470の1パターン
4)調査工程・機器と調査風景

[調査工程と機器]
①事前資料をもとに測定位置を決定(写真-5)
②IR:赤外線写真撮影(写真-6)
 ・カメラPENTAX645D IR
 ・レンズsmcPENTAX-FA645 75mm F2.8
 ・ストロボCanon SPRRDLITE 420EX
 ・赤外線フィルター(フジフィルム製シャープカットフィルターIR-86)
③顕微写真撮影:繊維の着色状況を観察
 ・カメラPENTAX WG-3(マイクロスタンドリング付帯)
④RF:可視・近赤外反射スペクトル分析(写真-7)
 ・タングステン ハロゲン光源LS-1
 ・二分岐型光ファイバーR400-7-VIS-NIR
 ・小型マルチチャンネル分光器USB4000
⑤XRF:蛍光X線非破壊分析(写真-8)
 ・放射性同位元素のアメリシウム241
 ・Si-PIN検出器XR-100
 ・波高分析器PMCA-8000A
⑥3DF:三次元蛍光スペクトル(写真-9)
 ・光ファイバー(照射光面積3mmφ)を取り付けた日立分光蛍光光度計F-2500

  • 画像(写真-5)  (写真-6)
  • 画像(写真-7)
  • 画像(写真-8)
  • 画像(写真-9)
5)調査機器ごとの観察・測定

5種の調査機器について調査内容・判定・所要時間を表1に整理した。調査の中でも、無機顔料を同定するためのXRF(蛍光X線非破壊分析)と有機染料を同定する3DF(三次元蛍光スペクトル)は時間を要する測定であることから、両者のみ所要時間を記述している。

  内容 判定 所要時間
IR 赤外線に対する色材の反射・吸収を観察 吸収・黒化して写るプルシャンブルーと墨を判定  
顕微写真 繊維の着色状況を観察 浸透した染料か粒子付着の顔料かを判定  
RF 色材の反射スペクトルを測定 色材の反射特性から顔料や染料の種類を推定  
XRF 顔料の主成分元素を分析 顔料の種類を判定 20分以上
3DF 染料の固有の蛍光特性を分析 染料の種類を判定 60分以上

3.調査業務の結果(まとめにかえて)

今年度は予定していた4点中No.828とNo.465は全調査を完了したが、No.470とNo.471はXRFと3DFを実施する時間が不足し完了できなかった。次回に実施することとしたい。
なお、デンマテリアル㈱に提出いただいた報告書は、例年通り『首里城公園に関する調査研究・普及啓発事業年報』No.11(令和元年度)に掲載を予定している。
次年度は、平成22年度から今年度までの理化学調査で得た色材の同定データを総括し、近世琉球期の染色技術について調査・研究を行う。

4.外部評価委員会コメント

重要なテーマの追究であり、評価できる(高良顧問:琉球大学名誉教授)。


*1琉球文化財研究室

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