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  1. 2)沖縄県を中心とした外来植物の適正管理に向けた分類学的研究
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

2)沖縄県を中心とした外来植物の適正管理に向けた分類学的研究

米倉浩司*1

1.はじめに

沖縄県のような面積の限られた島嶼環境においては、生物相の多様性に外来生物の与えるインパクトは大きい。特に亜熱帯地域に位置する沖縄県は、侵略的外来生物の分布を制限する要因の1つである冬季の低温の影響が本土と比較して小さいために、こうした種の侵入や繁茂によって大きな影響を受けやすい環境にある。こうした外来種を分類学的に正しく同定することは、その種の原産地や生態に関する情報へのアクセスを容易にし、それに応じて早い段階で適切な対策をとることを可能にする役割がある。沖縄県でもかつてはこのことが認知されており、外来植物の同定には在来種と同等の注意が払われていた。しかしながら、21世紀に入ると、沖縄県では外来植物の分類に十分な配慮が払われなくなっている傾向があり、新規に侵入している外来種が見過ごされていたり、逆に在来種の可能性が高い種が、過去の誤った分類学的解釈に従って外来種として扱われていたりしている。外来種に対する研究はその原産国においても進んでおり、その結果として従来の学名や原産地を変更しなければならない事例も多々あるが、沖縄では変更前の名前がそのまま通用している事例も少なくない。これらの問題は、沖縄において外来種の適正管理を困難にする原因となっている。
本研究は、外来種の疑いのある種について分類学的再検討を行い、分布変遷をモニタリングすることで、早い段階での対策を可能にするためのものである。

2.調査方法

1) 現地調査

沖縄県各地において、在来種とともに外来種の分布や生育状況についても注視し、適宜開花結実期の個体を標本として採集し、最新の知見に従って同定を行う。採集標本は沖縄美ら島財団総合研究センターの植物標本室に収蔵する。将来的には重複標本を他の研究機関に送付することを予定している。

2) 標本調査

沖縄美ら島財団総合研究センターの植物標本庫、東北大学植物標本庫(TUS)、京都大学植物標本庫(KYO)、琉球大学の理学部、教育学部の各標本庫(RYU, URO)、および同熱帯生物圏研究センター西表実験施設の所蔵標本を調べ、外来植物の標本の収蔵状況を把握すると共に、侵入時期なども調査する。鹿児島大学総合研究博物館 (KAG)、国立科学博物館(TNS)の画像付き標本データベースも同様に調査する。

3) 文献調査

国内外の外来植物に関する各種文献を調査し、沖縄県への侵入時期や経路、証拠標本の所在などを種ごとに精査する。さらに、外来植物の原産地における最近の分類学的取り扱いについてもチェックする。

3.結果と今後の課題

1) 現地調査 3)文献調査

沖縄島、西表島、石垣島において、250点ほどの外来植物標本を採集した。特に西表島については、これらの資料をもとにして琉球大学熱帯生物圏研究センター西表実験施設と合同で外来種のリストを作成し、その過程で多くの日本新産や沖縄県新産の外来植物を発見すると共に、一部については標本や文献調査を通じてその侵入経路や年代についても検討を行った。これらの結果は、下の標本調査の結果とあわせて投稿論文として準備されており(査読中)、近いうちに出版される予定である。
この調査の一環として、西表島と石垣島において南米原産のキク科の侵略的外来植物Praxelis clematidea (写真-1右、写真-2)が侵入していることを発見し、その形態的特徴と西表島における侵入年代、生育状況を明らかにして、注意喚起のためこれらの知見を令和3年植物分類学会で発表を行った。

  • 写真-1
    写真-1 西表島美原牧場内に野生化した外来植物(令和2年撮影)
    左:沖縄県新産のハリフタバモドキ(アカネ科)
    右:日本新産のPraxelis clematidea (キク科)
  • 写真-2
    写真-2 日本新産のPraxelis clematidea (キク科)
    左:生態写真。西表島で令和2年撮影。右:日本最初の記録となる標本(平成16年採集:東北大学(TUS)所蔵)。
2) 標本調査

東北大学、琉球大学、国立科学博物館の標本調査を通じて、沖縄県西表島を中心としての外来植物の過去の侵入年代を明らかにし、上記の現地調査と合わせて発表を準備している。

4.外部評価委員会コメント

標本室には在来種だけでなく、外来植物や栽培植物も積極的に標本にして入れるようにしたい。
(小山顧問:高知県立牧野植物園 顧問)。


*1植物研究室

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