1. 7)ヒカンザクラの開花調整等に関する調査(第4報)
沖縄美ら島財団総合研究所

亜熱帯性植物の調査研究

7)ヒカンザクラの開花調整等に関する調査(第4報)

阿部篤志*1・端山武*1・宮里政智*2

1.はじめに

沖縄県に植栽されているヒカンザクラ(Prunaus campanulata Maxim)は、実生で増殖された株がほとんどで、株毎に個体差があり満開時期を予測することが非常に困難とされている。一方ではヒカンザクラの花芽の休眠期の解除並び開花において温度は大きな制限因子であることが知られている。
そこで、今回は、調査木を基準としたヒカンザクラの開花日の予測方法を検討すると共に低温処理による開花調整の実証試験を行ったので報告する。なお、本調査は名護市商工観光課からの業務委託として実施した。

2.調査の実施結果

名護城公園の定点観察

1)観察地点の選定と調査方法

定点観察用樹木の選定に当たっては、(1)樹勢が良いこと、(2)複数本のまとまりであること、(3)観覧の動線及びポイントとして利用しやすい立地であることを条件に11地点を選定した。
調査期間は桜が開花しだす2016年12月下旬から花が無くなる3月中旬まで行った。調査方法は、定点での写真記録と目視による記録を週1回行った。目視による記録については、調査地点の樹冠または林冠全体に占める花の量の割合が10%未満を0点、10%以上〜30%未満を1点、30%以上〜60%未満を2点、60%以上〜90%未満を3点、90%以上〜100%を5点として、5段階評価で行った。11地点の開花点数の合計点数が最高点である月日が、名護城公園の桜の開花最盛期とした。その開花最盛期となった合計点数を基準に、各月日の合計点数を百分率で算出し、その値を用いて同公園における開花状況を「・・分咲き」と表した。
2015年から2017年の「名護城公園におけるカンヒザクラ植栽木の開花状況分析表」の結果を用いて、開花点数が高くなりやすい時期を各地点で調べた。調査日は調査年度によって少し異なるため調査時期を1回~11回目とした。過去3年間の「名護城公園におけるカンヒザクラ植栽木の開花分析表」の開花点数を各地点の調査時期(回)ごとに合計した。その点数から3年間の各地点における開花傾向を評価し、高得点の期間を桜の見頃とした。また、地点の樹幹・林冠全体に占める花の量の割合が60%以上であれば、その地点の見頃となるため開花点数5点は3点として扱った。以上から、3年間の合計点数が9点となる場合、過去3年間は樹幹・林冠全体に占める花の量の割合が60%以上、8点は過去3年間のうち2回は60%以上、1回は30%以上~60%未満であったことを示す。今回は、過去3年間のうちに1回は3点を記録し、その他の年でも1点以上を記録する合計7点を基準とし、7点以上の調査時期(回)の期間をその地点の桜の見頃とした。

2)結果及び考察

2016年12月28日から2017年3月16日にかけて11地点の定点観察を行い、開花状況の点数により評価した結果を表1に示す。今回の調査では、開花点数の合計点数が2月8日に30点と最も高く、2月15日に27点、2月15日に25点と続いた。また、名護城公園における相対的な開花状況から、2月1日から2月15日は「9分咲き」であったため、2017年の同公園における桜の見頃がこの時期であったと推察した。過去2年間の名護城公園の桜の見頃(2013年~2015年の調査「桜開花調整実証業務報告書」)と比較すると、2015年は1週間早い1月27日~2月3日、2016年は3日遅い2月11日~18日であった。そのため、ここ3年間では中間にあたる開花最盛期であった。
各地点における開花点数(表1)については、「さくらの園北側東屋」と「さくらの園西側林道」の2地点が5点を記録し、その他の地点は3点であった。2016年は「名護神社の階段(中部)」と「名護神社近くの林道」の2地点、2015年は「天上展望台周辺」と「名護城公園側林道」の2地点が5点を記録した。そのため、5点を記録する場所は年によって異なった。開花点数の5点は、樹冠・林冠全体に占める花の量の割合が90%以上~100%であるため、調査のタイミングなどによって評価に影響が出ていると考えられた。
各地点の調査日ごとの開花状況を比較すると、「さくらの園西側林道」から山頂方向の4地点は2月1日から、一方で「ウーマク広場近く林道」から山麓方向の5地点は2月8日から3点を記録し始めた。昨年では、「ウーマク広場近く林道」と「さくらの園西側林道」を境に、山頂では山麓よりも早く開花点数が高くなる傾向にあることが分かり、今年も同様の結果が得られた。
ここ3年間(2015年~2017年)の「名護城公園におけるヒカンザクラ植栽木の開花状況分析表」から各地点の開花点数を合計した結果を表2に示した。開花合計点数が高い調査時期(回)は、過去3年間に開花点数が高かったことを示す。今回の調査では7点以上の期間を桜の見頃とした。その結果、各地点の桜の見頃は、「名護城公園南口側道路」は2月8日~25日、「名護神社の階段(中部)」は2月1日~11日、「名護神社の階段(上部)」は2月15日~18日、「名護神社近く林道」は2月8日~11日、「ウーマク広場近く林道」は2月1日~11日、「さくらの園西側林道」と「管理事務所南側林道」は2月1日~4日、「さくらの園北側東屋」は2月1日~11日、「天上展望台周辺」は1月25日~2月4日、「名護城公園東側林道」は1月25日~2月11日であった。このことから、各地点で桜の見頃は異なっており、山頂付近の2地点「天上展望台周辺」と「名護城公園東側林道」は早い見頃、山麓付近の1地点「名護城公園南口側道路」は遅い見頃にあった。特に「名護城公園南口側道路」の8回目(2/15~18)と「名護城公園東側林道」の6回目(2/1~4)は9点を記録し、毎年この期間は「地点の樹幹・林冠全体に占める花の量の割合が60%以上」であった。一方で、「名護城公園南口広場~名護神社の階段(下部)」は7点以上を記録せず、その年によって開花状況は異なることが分かった。

早咲きと遅咲きの個体の観察について

1)観察木の選定と調査方法法

早咲き・遅咲き観察用樹木の選定に当たっては、(1)樹勢が良いこと、(2)樹形のバランスが良いこと、(3)観察が容易なポイントであることを選定基準とした。昨年では、2015年に調べた早咲き・遅咲き個体が翌年も早咲き・遅咲き傾向にあることが分かった。そのため、今年も昨年までの観察木を調査対象とし、さらにその個体よりも早い時期に「開花」した株、遅い時期に「満開」となった株を新たに2個体ずつ追加した。今年の観察木は、早咲きを計6個体、遅咲きを計8個体選定した。個体調査方法は、写真撮影と目視による記録を行い、早咲き個体は「開花日」と「満開日」の2つ、遅咲き個体は「満開日」と「花の終わりの日」の2つを調べた。尚、「開花日」は5〜6輪以上の花が開いた状態となった日、「満開日」は80%以上の蕾が開いた日、「花の終わりの日」は80%以上の花が萎れた状態となった日とした。

2)結果及び考察

早咲き個体の「開花日」と「満開日」については、表3に示した。今年の早咲き個体の開花日は12月28日に3個体、1月4日に2個体、1月11日に1個体であった。前回までの早咲き個体の開花日は、2016年は12月31日、2015年は1月6日であった。このことから、名護城公園における早咲き個体は12月末~1月1週目に開花する傾向にあった。今年の早咲き個体の満開日は6個体のうち4個体が1月18日であった。2015年は1月20日、2016年は1月13日~27日に早咲き個体が満開となった。そのため、名護城公園では早ければ1月中旬に早咲き個体が満開になることが分かった。昨年の調査では、早咲き個体は早咲きになる傾向にあることが分かった。今年の名護城公園の開花最盛期は2月8日であったため、今年も早咲き個体は早咲きの傾向にあった。

遅咲き個体の「満開日」と「花の終わり日」については表4に示した。遅咲き個体は、2月22日から3月2日に満開となり、3月9日~16日に花終わりとなった。昨年では、2月25日に観察木6個体のうち4個体が2月25日に満開となった。そのため、今年の遅咲き個体は昨年と同じか1週間遅い満開日となった。それに対して、2015年の遅咲き個体の満開日は2月10日~18日であったため、ここ3年間では2015年の結果が早い傾向にあった。名護城公園の桜の開花最盛期は2月8日であったため、遅咲き個体の「満開日」は2~3週間遅い満開日であった。そのため、昨年の遅咲き個体は今年も同様に遅咲き傾向にあった。No.2(名護神社)の遅咲き個体は、花付きが悪く、数輪しか花をつけなかったため、今年の「満開日」と「花終わり日」を調べる事は出来なかった。
定点観察による各地点における開花点数を比較した場合、山頂では山麓よりも早く開花最盛期をむかえる傾向にあった。その一方で、早咲き個体と遅咲き個体の分布には標高の違いによる傾向は見られなかった。「名護城公園南口側道路」では早咲き個体と遅咲き個体があり、早咲きは1月18日に、遅咲きは3月2日に満開となった。そのため、各地点の開花状況を把握する場合は、個体の持つ開花特性を考慮する必要がある。

  • 表3 2015年~2017年の早咲き個体の開花日と満開日

    表3 2015年~2017年の早咲き個体の開花日と満開日

  • 表4 2015年~2017年の遅咲き個体の満開日と花終わり日

    表4 2015年~2017年の遅咲き個体の満開日と花終わり日

2. ヒカンザクラの開花調整実証試験

1)試験方法

1)供試株

栽培期間5~7年のヒカンザクラ65株(鉢物)を用いた。

2)冷蔵処理方法

大型冷蔵庫内でヒカンザクラの冷蔵処理〈5~10℃〉を10日~11日間行なった。表5に株数、搬入搬出日を示した。その後、圃場に移動し開花状況を調査した。
なお、比較するため冷蔵処理していない株も同様に圃場で管理した。

表5 処理株数及び日数表
表5 処理株数及び日数表

3)管理

  1. 冷蔵庫内での灌水は、底から漏れない程度、湿らす程度で乾燥気味に管理した。
  2. 冷蔵庫内の照明は蛍光灯で勤務時間中だけの点燈、休祝祭日は暗状態であった。
  3. 露地(圃場)では、潅水だけの通常管理を行なった。

4)開花状況記録

  1. 桜の開花は、5~6輪以上の花が開いた状態となった日とした。
  2. 80%以上の蕾が開いた日を満開とした。
  3. 80%以上の花が萎れた状態で花の終わりとした。

2)結果及び考察

ヒカンザクラの冷蔵(低温)処理期間を10日~11日間とし、11月14日から実証実験を行った。初回を第1班として11月14日(15鉢)に、第2班を11月24日(10鉢)、第3班を12月5日(10鉢)、第4班を12月15日(15鉢)に搬入し低温処理を行った。なお、対象として第5班(15鉢)の無処理を設け、比較用とした。今回供試した鉢物ヒカンザクラは、実生から育っていること等から、個体差が大きく、各処理班においてもその影響が見られた。そこで、今回の試験では、各班における最も早咲き株及び遅咲き株を除外し調査結果を確認してみた。11月14日から10日間低温処理した第1班は、開花が12月14日~12月31日に確認された。11月24日から低温処理した第2班は、12月28日~1月10日に、12月5日から低温処理した第3班は、1月4日~1月17日に、12月15日から低温処理した第4班は、1月19日~1月26日に、また、比較用の第5班では、1月18日~2月21日に開花が確認された。
今回の10日~11日間の冷蔵処理後、開花に要した日数は、第1班で21日、第2班で24日、第3班で21日、第4班で25日であった。個体差がありバラつきも見られるが、低温処理後、概ね21日~25日の間に開花が始まるものと推定された。
ヒカンザクラの低温処理後から開花までの平均積算温度を算出した場合、第1班で開花までに要した積算温度は、437.1~761.5℃、第2班で478.7~733.0℃、第3班で404.8~636.0℃、第4班で457.4~563.2℃であった。そのことから、今回の10日~11日間の冷蔵処理後、開花に要した平均積算温度は404.8~478.7℃であることが推察された。
第5班(無処理)の比較用株は、1月18日~2月21日の幅で約1か月以上もの開きが観察された。
このようにまばらに開花が始まったこと等から、今年度は、自然状態での低温による休眠覚醒が非常に少なかったものと推察される。従って、人為的な低温処理はヒカンザクラの開花調整には、非常に有効な手段だと考えられる。

3. 要約

名護城公園における3年間のヒカンザクラ定点観察ではその年の温度変化等によりそれぞれの地点での開花状況は異なっていた。また、山頂では山麓よりも開花が早い傾向が伺えた。
3年間の早咲き個体を追跡調査したところ、早咲き個体は毎年早く咲く傾向が見られた。また、遅咲き個体も同様に、遅く咲く傾向が見られた。
ヒカンザクラを5~10℃、10~11日間の低温処理を施した場合、処理後、概ね21日~25日で開花が始まるものと推定された。

  • 図-1 冷蔵処理状況 H28.11.16

    図-1 冷蔵処理状況 H28.11.16

  • 図-2 搬出状況 H28.12.26

    図-2 搬出状況 H28.12.26

  • 図-3 圃場での管理状況 H28.12.26

    図-3 圃場での管理状況 H28.12.26

  • 図-4 圃場での管理状況(手前第2班)H29.1.9

    図-4 圃場での管理状況(手前第2班)H29.1.9

  • 図-5 圃場での管理状況(手前第3班)H29.1.9

    図-5 圃場での管理状況(手前第3班)H29.1.9

  • 図-6 生育状況(第2班No34) H29.1.10

    図-6 生育状況(第2班No34)H29.1.10

  • 図-7 圃場での管理状況(手前から第1班~4班)H29.2.14

    図-7 圃場での管理状況(手前から第1班~4班)H29.2.14

  • 図-8 圃場での管理状況(第5班)H29.2.14

    図-8 圃場での管理状況(第5班)H29.2.14

4. 参考文献

  1. 上里健次(1993)沖縄のカンヒザクラに関する調査研究琉球大学農学部学術報告第40号
  2. 上里健次、比嘉美和子(1995)ヒカンザクラの開花期とその地域差に関する研究 琉球大学農学部学術報告第42号
  3. 宇根和昌(1995)リュウキュウカンヒザクラの開花特性に関する調査 熱帯植物調査研究年報16号
  4. 小杉清(1976)花木の開花生理と栽培 博友社
  5. 上里健次、安谷屋信一、米盛重保(2002)ヒカンザクラの開花の早晩性における地域間差、個体間差 琉球大学農学部学術報告第49号
  6. 川上皓史、山尾僚、盛岡耕一、池田博、池田善夫(2009)温度変換日数法を用いたソメイヨシノの開花調節 Naturalistae13
  7. 張琳、米盛重保、上里健次(2005)ヒカンザクラの開花時期,期間、花色濃度における固体間差と花芽形成に関する調査 球大学農学部学術報告第52号
  8. 村上 覚、末松信彦、中村新一、杉浦俊彦(2008)カワズザクラにおける開花予測方法の検討 植物環境工学(J.SHITA)20(3):184-192
  9. 村上 覚、加藤智恵美、稲葉善太郎、中村新一(2008)カワズザクラの多発休眠期における発育速度モデルの作成ならびに切り枝での開花及び品質に及ぼす気温の影響 園学研.(Hort.Res.(Japan))7(4):579-584
 

*1植物研究室 *2営業推進部

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