1. 5)水生哺乳類の繁殖及び健康管理に関する調査研究
沖縄美ら島財団総合研究所

海洋生物の調査研究

5)水生哺乳類の繁殖及び健康管理に関する調査研究

植田啓一*1,2・小俣万里子*2・中村美里*2・中島愛理*1,2・比嘉 克*3・池島隼也*3・瀬戸沙也加*3・河津 勲*1,3

1.はじめに

イルカをはじめとした水生哺乳類の持続的飼育のためには、飼育下での繁殖を推進することや、健康管理技術の向上が必要である。本事業では、イルカ等の自然繁殖および人工授精技術、CT等の画像機器を用いた診断技術や治療技術、外科的処置や麻酔技術、理学療法等の調査を実施し、動物福祉の向上に資するとともに、野生動物の保全に寄与することを目的とする。

2.繁殖に関する調査

写真-1 アメリカマナティー胎仔エコー
写真-1 アメリカマナティー胎仔エコー

写真-2 バンドウイルカ雌LHサージの確認
写真-2 バンドウイルカ雌LHサージの確認

写真-3 凍結精液の様子
写真-3 凍結精液の様子

昨年度に妊娠したアメリカマナティーは、2021年6月16日に20年ぶりとなる第2仔である雄を出産した。誕生から3日後に授乳が確認されたが、泌乳量が少なく、授乳行動も減少したことから、人工哺乳により育成を行った。一方で、昨年度に妊娠したオキゴンドウは2021年7月11日に第2仔である雄を出産した。オキゴンドウの出産前後には胴周囲長や乳溝幅を定期的に測定し、出産兆候や子宮回復のマーカーとして有効か分析した。
人工授精の取り組みでは、発情をモニタリングしていたバンドウイルカに、排卵のタイミングで採取精液を注入し、妊娠に成功した。ミナミバンドウイルカ、バンドウイルカ、オキゴンドウ、シワハイルカにおいては、雄の精液性状のモニタリングを行った。特にオキゴンドウでは、精液性状と血清中テストステロン濃度の長期的なモニタリングを行った結果を、第47回海獣技術者研究会にて発表し、ベストプレゼンテーション賞を受賞した。また、雌のシワハイルカにおいても、血中性ホルモンのモニタリングを継続して行った。
精子の凍結保存の取り組みでは、ミナミバンドウイルカ、バンドウイルカ、シワハイルカ3種4頭において、ストロー法(0.25ml/本、精子濃度約0.6-8億/ml)による保存を行った。ミナミバンドウイルカでは454本、バンドウイルカでは495本、シワハイルカでは36本のストローを凍結保存し、今年度までの総凍結保存数は、4,069本となった。

3.動物福祉に関する調査

今年度は、シワハイルカの自傷行動の要因分析を行い、雌雄でのストレス応答が異なることや、イルカショーに参加することにより、自傷行動の軽減できることが判明した。本結果は、今年度開かれた九州沖縄ブロック飼育技術者研究会で発表した。また、他個体に対して攻撃的であったユメゴンドウにおいては、行動変容法に基づいた遊具投入を反復する方法が、本種の攻撃行動の抑制に有効であることが明らかとなった。本結果は動物園水族館雑誌に掲載され、令和3年度日本動物園水族館協会「技術表彰」を受賞した。

4.治療に関する調査

写真-4 オキゴンドウ下顎異物
写真-4 オキゴンドウ下顎異物

写真-5 ミナミバンドウイルカ歯の転位
写真-5 ミナミバンドウイルカ歯の転位

写真-5 ミナミバンドウイルカ抜歯処置
写真-5 ミナミバンドウイルカ抜歯処置

今年度は歯科疾患の2症例について、画像診断検査により確定診断を実施した。1症例目は、CT検査が不可能な鯨種であるオキゴンドウの下顎の腫脹に対し、X線検査により歯肉への石の没入を確認した。その後、鎮静処置を施し、横臥位にて保定、異物除去処置を実施し患部の良化を認めた。2症例目は、外傷により閉口が困難になっていたミナミバンドウイルカに対し、CT検査により下顎歯の転位を確認、その後、鎮静下にて局所麻酔を実施し、抜歯処置を行った。治療後の摂餌への影響は認められず、閉口が可能になった。

2018年に口腔内扁平上皮癌を発症したミナミバンドウイルカに対し、今年度も定期的に抗菌薬ブレオマイシンを患部に局所投与を実施した結果、腫瘍部の改善および縮小化が認められた。本症例の早期発見のための検査方法が、Veterinary Clinical Pathologyに掲載され、本治療方法は、Japanese Jounal of Zoo and Wildlife Medicineに掲載された。

5.進行真菌感染症に関する調査

琉球大学との共同研究により、クジラ型パラコクシジオイデス症(PCM-C)において、今まで確定診断が困難であった軽度な症状の症例や、原因菌の遺伝子データ検出に難渋する症例に対し、従来のPCR検査とLAMP法を組み合わせることにより、迅速な類症鑑別が可能となることを明らかにした。本診断法を用いることにより、臨床症状や病理組織学的にPCM-Cが疑われている症例の分子生物学的確定診断が広く一般に普及すると考えられる。本診断方法は、Japanese Jounal of Zoo and Wildlife Medicineに掲載された。

6.外部診療について

今年度は、コロナ禍の感染状況を考慮しながら、感染対策を徹底し、のとじま水族館においてカマイルカの鎮静下における抜歯処置の技術指導、新屋島水族館においてマナティーの水中エコー検査による妊娠診断、体調不良のバンドウイルカの内視鏡検査の3件を実施した。

7.外部評価委員会コメント

研究課題に基づく調査研究は順調に進行していると思われる。とくに人工繁殖技術の開発努力は具体的な成果につながっており高く評される。学術論文としての成果公開についても問題はない。新型コロナウイルス感染症拡大の中で諸種の困難があると推察されるが、目標達成のため着実に歩みを進めていくことを願っている(村田顧問:日本大学特任教授)。


*1動物研究室 *2動物健康管理室 *3海獣課

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